三匹の動物の終の旅【リレーエッセイ:書評】

水井 雅子

『コーラの木の下で - ライオンとゾウとハシビロコウの終の旅』 びごーじょうじ 作・絵

軽妙洒脱な絵とともに語られる、三匹の動物の旅の物語は、子供向けの絵本ではない。副題に「終の旅」とあるように、死を間近に控えた老いた動物たちの物語であり、作者自ら老母を介護した体験から語られる、「老い」と「死」、「生きること」への考察でもある。 主人公たちが、ライオン、ゾウ、ハシビロコウという動物の姿を取っているのは、舞台をアフリカにすることによって寓意性を上げるためのリアリティーへの配慮と、人間であるよりは直接性が避けられたということ、またユーモアを出すことができたということ、そして人間世界への痛烈な批判をオブラートに包みつつ且つ説得力を持たせるための、実に巧みな設定である。

年老い、脳梗塞を患って体が不自由になり、リハビリ生活を余儀なくさせられた独り者の老ライオン、「耳以外成長障害」という奇病のために、耳だけは普通の象の大きさだが体が育たなかった小さな老ゾウ(彼は子象のときからいじめられどおしで、死ぬ前に一度で良いから輝きたいと願っていた)、そして、何時間でも身動き一つせずに「待つ」ことによって水辺の魚を取って暮らしてきたのに、これまた年老いて動体視力や反射神経等、運動神経全般に支障をきたし、肩や首の凝りや痛み、腰痛、膝痛に悩まされるハシビロコウ。それぞれが、今後を考えて一歩を踏み出したときに、この三人(三匹)は出会った。

泣く男【教員リレーエッセイ】

大場 昌也

最近はよく泣く。それも大の男が、である。答弁中に泣いて首相の座を棒にふった(といわれる)政治家K、その筋との関係が知れて何を勘違いしたか後輩たちの手本になると称して引退した芸能人Sなどである。

人は誰でも泣く。しかし、古今東西、特に人前での男の涙は禁じられてきた。日本でも男は泣いてはいけないことになっている。負けた甲子園球児や娘を嫁にやる父親の涙は例外である。

一方、女の涙はたいていの場合許され、しばしば同情され女性らしいものとしてしばしばエレガントに受け止められる。例えば、英語では、女性の涙はfemale とは言わず fragile や feminineを使って表現する。 男はこれをフェアーでないと感じているが、フェアーでないと抗議すること自体が男らしくないと言われるので黙っている。

生物の進化と絶滅【教員リレーエッセイ】

小原 金平

『38億年生物進化の旅』(池田清彦(著)、新潮社)というタイトルの本を読んだ。極めて興味深い本だ。想像したり考えたりする材料が一杯詰まっている。といっても、実際には想像もできないような話が一杯である。これらの話には答えのない疑問が湧いてくるが、前後の関係なく取り出してぼんやり考えるのに最適だ。さて、タイトルにある38億年というのは、地球に最初の生命が出現してから現在までの時間である。実感としてまったく見当もつかないが、時間の単位としての1億年とはどれくらいの年月なのだろう。宇宙が誕生したのが150億年前で、地球が生まれたのが約46億年前だという。それから8億年もかかってやっと最初の生命が生まれたらしい。それも海ができてから2億年を要したのである。最初の生命といっても単細胞であるからまさに原始的だ。しかし、この事実ですら、海という環境がお膳立てされていなければ起きなかったことである。それから多細胞生物が出現するまでに十数億年が経過しなければならなかった。地球の歴史のかなりの部分は単細胞生物の時代だったことになる。これには驚かざるを得ない。酸素濃度が高くなったのが要因だそうで、環境と生命が密接な関係にあることをここでも実感する。

犬が猫になった話

槻木 裕

昨年の秋、ペットショップで猫を買った。それまでに、何を飼うか我が家で論争があり、家内は絶対に犬、娘は絶対に猫、息子はどちらでもよいという勢力図のなか、僕は犬派であった。できるなら柴犬と思っていたのだが、金魚を買いに入った店で、ついでにと見て回ったケージにちょこんと座っていた一匹の子猫に目がとまって、ほとんど衝動的に手付けを払った。

犬派から猫派に簡単に鞍替えしたのは、生意気盛りの高校生の娘がちょっと元気がなくて気晴らしになればと思ったからだが、そもそも僕が犬派に与(くみ)したのは、家内が健康のために僕に朝の散歩を薦め、犬のお伴をするのであれば、割合簡単に散歩の習慣がつくのではないかと、その程度の理由でしかなかったことにもよる。“犬が猫になった”おかげで、家内は僕に、朝の散歩が体にいい、いいと、ガァガァ言わなくなった。

謎の解明

横田 秀樹

先日、あるテレビ番組で「リーマン予想」が発表されてから150年を迎えたと言っていました。リーマンといっても世界同時不況のものではなく、数学史上最難関の問題に関するもので、クレイ数学研究所から100万ドル!の賞金がかけられた七つのミレニアム懸賞問題の一つです。一見無秩序でバラバラに見える素数2, 3, 5, 7, 11, 13, 17, 19, 23, 29, 31, 37, 41, 43・・・がどのような「規則」で現れるかという問題なのですが、ドイツの数学者リーマンによる予想(仮説)は、その問題解明のためのとても重要な鍵だと考えられています。そして、最近の研究では、その規則が解明されれば宇宙全体の物理法則が明らかになるかもしれないと言われ(ゆえに、素数は「創造主の暗号」と呼ばれているらしい)、数々の数学者たちが解明を試みている大きな「謎」なのだそうです。直感的に、リーマン予想が解かれると「すごいことになりそうだ」とは感じますが、実際解明されてしまうと、例えば、現代社会のカードなどに利用されているデジタル系セキュリティなどはすべて解かれてしまうという問題もあるようです(専門家によるとそう簡単にはいかないそうですが)。