報道英語とアメリカ社会

小原 金平

この夏、米国南部のルイジアナ州を大型ハリケーンKatrinaが(それに継いでRitaも同じ南部を)襲った。何十万人という多くの住民が住み慣れた土地を離れ、隣のテキサス州その他の地域に避難することを余儀なくされた。この人たちをどう呼ぶかが全米で大きな問題になっている。問題になったのは当初の報道で使われたrefugeeという語である。refugeeという語が適切かどうかが議論となった。避難した人々の多くがアフリカ系アメリカ人であったが、彼らはこの語をoffensiveだと受け止めたのである。この語から連想される典型的なイメージが、アジアやアフリカからアメリカに避難してくる貧しい人たちだからである。いくつかの辞書を調べた限りでは、国外から宗教的、社会的、経済的理由で避難してくる人をそう呼ぶのか、それとも国外に限らず戦争・災害などを避けて避難所を求めてくる人のことを指すのか一定していない。いろいろな状況があるようだ。英和辞書では「避難民、難民」が最も一般的な訳語だが、ある日本のテレビニュースでは「避難者」とも言っていた。

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『星の王子様』 ―たまには、児童文学の古典を読んでみようかー

水井 雅子

児童文学ではイギリスに到底及ばないフランスで、『星の王子様』は昔から世界的にファンが絶えない、数少ない物語の一つです。いつの時代にもファンがいるというのはすごいことですよ。2000年にはサン・テグジュペリ生誕100年ということで、フランスでは大騒ぎでしたし、今よりも30〜40年前は一種のブームで、女子大生の中で『星の王子様』のフランス語版を持ち歩くことが流行になった時代もあったほどなんですから。静岡の方には、『星の王子様』のきれいな博物館もあるらしいですよ。

でも現代の若者たちの中で、この本を読んだことがある人は一体どれ位いるのかしら?タイトルだけ知っているけれど、意外と読んでない、ってこともあるのでは?実はこれ、一見やさしそうでいて、結構ややこしい本ですぞ。これを作者は「子どもだったころのレオン・ウォルトに」捧げているのだけれど、献辞をよく読んでみると、子どもたちに捧げているのではなくて、子どもの心を忘れていない大人に捧げられているようですね。

タイトルも素敵だし、挿絵も洒落てるし、そんなに長い物語じゃないし、子どもの王子様が主人公だし、いかにも児童文学という感じがするんですけれどね、いわゆる「子どもの本」とも言い切れないものがあって、そこがいかにもフランス的ではあるのですよ。

「薬」といっても色々あります−名詞の意味について考えてみましょう−

中島 彰史

以下に挙げるのは様々な「薬」を表す単語です。

  「風邪薬」   「粉薬」   「胃薬」   「眠り薬」   「塗り薬」   「せんじ薬」

どんな薬なのかはわかると思いますが、言語学的に考察してみると、全て「○○薬」という形になっているという点では共通していますが(つまり、「○○」という要素と「薬」という要素から成り立っている)、「○○」と「薬」との間に成立する意味の面では違いが見られるものがあります。例えば、「風邪薬」の場合、「風邪」という要素は、その薬がどんな病気を治すためのものかという点を指定しています。この点は、「眠り薬」や「胃薬」も同様で、「眠り薬」は「眠り」という効果をもたらす薬であり、「胃薬」は「胃の病気」を治すための薬と考えられます。つまり、これら三つの薬は、「○○」の要素が薬の目的・機能を明らかにしていると言えます。「粉薬」の場合は、「粉」が「薬」の姿・形がどんなであるのかという点を指定しています。「塗り薬」は、「粉薬」と同様に、「塗るようにして用いる」つまりは軟膏のような薬、つまりは「薬」の形状を指定していると考えた方が良いでしょう。「せんじ薬」の場合は、「煎じ」がどのようにしてその薬を作ったかを指定しています。つまり、「薬」というのは人間がある目的のために作り上げたもので、目に見えるものです。そこから、「どのような目的のものなのか」「どのようにして作られたものなのか」「目に見えるものなので、どのような形状なのか」という観点から様々な「薬」を指定することができ、それを表す単語が用意されている、ということです。このことは日本語に限らず他の言語でも言えることです。例えば、英語で考えてみましょう。以下に挙げるものは前の要素にpaperが付いている単語です。

  paper clip   paper money   paperboy   paper weight

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ある執事の回想 ―『日の名残り』―

木梨 由利

書を紐解き、じっくり思索にふけるのにふさわしい秋がまた巡ってきました。今回は、晩年、いわば人生の秋にある人物を主人公としたイギリス小説、『日の名残り』(The Remains of the Day, 1989)をご紹介しましょう。

主人公のミスター・スティーブンスは、ダーリントン・ホールと呼ばれる由緒ある屋敷の執事です。執事という言葉は聞き慣れないかも知れませんが、大きな屋敷で、大勢の使用人を統括して、屋敷内の万事が滞りなく運営されるように図る総責任者のこととでも言ったらいいでしょうか。物語の「現在」は1956年夏。スティーブンスは休暇をかねて、車でイギリス西部に旅します。アメリカ人の手に渡った屋敷での人手不足に悩み、20年前に結婚退職したかつての女中頭ミス・ケントンに会って、復職の可能性を探るのが目的です。物語は、6日間に渡る旅の様子と、二つの大戦のはざまに起きたできごとを、スティーブンス自身が語る形で進められています。

屋敷の元の所有者で、スティーブンスが35年間仕えてきたダーリントン卿は、高潔な人格者で、私人としてではあっても政界にも少なからず影響を与えていました。第一次大戦後のドイツの困窮をみかねた彼が、友好の手を差しのべようと各国の要人に呼びかけるために、屋敷で国際会議を開催した時、執事としてその場に立ち会ったことをスティーブンスは誇らしく思い出します。けれども、やがてヒトラーが台頭し、第二次世界大戦が勃発するにいたった時、卿はナチスの擁護者として弾劾されることになるのです。スティーブンスが、理想的な執事の資質として「私見を述べぬこと」を繰り返し挙げている背景には、主人が危険な方向に流されていることに薄々気づきながら、黙視してきた自分自身への反省や無意識の自己弁護があるとも解釈されるのです。

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これで人生が変わる?!英語学習本のベストセラーたち

新村 知子

英語学習には、みんな苦労しているようで、日本で発行されている英語学習本にも、ミリオンセラーになるものがいくつかある。本屋をぶらついていると、「このやり方でTOEIC800点を達成!」や「この英語学習で人生が変わる!」など、センセーショナルなコピーがついたものも多い。今月は、これらのベストセラーたちが提唱する英語学習法をのぞいてみたいと思う。

まず、誰でも知っているのが『ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本』(向山淳子+向山貴彦、幻冬舎、2001年)だろう。シリーズ累計200万部突破だそうだ。本書の大部分は、SVO(主語+動詞+目的語)などの英語文の基本的な仕組みを猫のイラストで押さえている。この基本を理解したあとは、自分のレベルにあった洋書を読み続ければ英語は習得できるという考え方からなっている。現在は公式ホームページも持ち、初級者向けのリーディング本も何冊か発行しており、こちらも売れ行きが好調なようである。外国語学習には多くのインプットが必要であること、大人の学習者は基本的な文法学習なしに習得することが難しいことを基礎に、読者に分かりやすいシンプルな学習法を提唱している。

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