記憶の再生【心理学コラム】

Image courtesy of Shomrat and Levin

中崎 崇志

プラナリアという生物をご存じでしょうか。体長2~4センチほどの平べったい軟体動物(扁形動物)で,水中で生活し,水底に堆積した有機物を分解する働きをしています。日本でプラナリアという場合は,一般には「ナミウズムシ」を指します。平たい身体に三角形の頭を持ち,上から見るとその頭の真ん中にドラえもんのような愛嬌のある目が2つ並んでいます。 プラナリアは,趣味で作った小型のアクアリウムにも発生するそうですが,脱皮したばかりのエビに傷をつけたりするなど,そちら方面では嫌われ者のようです。しかし,生物学や分子生物学,神経科学の方面では,昔から極めて興味深い動物として扱われてきました。プラナリアは全身に幹細胞を持っていて,身体を2つに切っても,それぞれの切片が元の姿に再生するのです。 では,切断されたプラナリアの記憶は,どうなるのでしょうか? 頭と尻尾を分けるように切断されたら,尻尾側――すなわち脳の含まれない切片から再生した個体は,記憶を保ち続けているのでしょうか。ふつうに考えれば,「まっさらな新しい脳」ができたのではないか,と考えたくなりますよね。 これについて,先日,アメリカ・タフツ大学の生物学者 Michael Levin と Tal Shomrat がおこなった,非常に興味深い研究が発表されました。

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心理学で発達的変化をとらえる方法 【心理学コラム】

前川 浩子

今年も4月に健康診断がありました。この年齢になると、一年前の結果に比べて身長が伸びていたということはありませんし(むしろ、数ミリ縮んでいることにショックを受けるのですが)、一年前どころか、中学生の時から私の身長はずっと横ばいのまま、変化はないと言えるでしょう。しかし、たいていの場合、思春期あたりまで、人の身長や体重といった身体的特徴は時間の経過とともに変化していくことはよく知られていることです。そして、このような身体的特徴だけでなく、私たちの行動や心の働きが、時間の経過とともにどのように変化するのかを明らかにすることも、発達心理学の分野ではとても重要なことだと考えられてきました。発達心理学では、この「時間の経過による変化」を調べるために、2つの方法が一般的に用いられてきました。一つは横断的研究(cross-sectional method)、もう一つは縦断的研究(longitudinal method)です。

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心理学における“モデル”の考え方 【心理学コラム】

中崎 崇志

前回のコラムから,ずいぶんと間が開いてしまいました。前回のお話は『心理学で「物理学」? ―精神物理学入門―』でしたが,この最後に『次は,「ウェーバーの法則」と「フェヒナーの法則」を通して,「心の機能の法則性」について触れてみたい』と書きました。今回はこの約束を果たすべく,心理学における“モデル”について考えてみたいと思います。

心理学で“モデル”と言った場合は,いくつかの解釈があります。今回のコラムでお話ししたいモデルは「心の働き・機能を定式化したもの」です。一般法則とかメカニズム,模式図などと言い換えてもいいでしょう。 前回のコラムで紹介した精神物理学の「ウェーバーの法則」や「フェヒナーの法則」は,モデルを数式で表します。ウェーバーの法則は,前のコラムに書いたように「2つの刺激強度の違いがわかる最小の物理量の差」についての法則です。これを理解するために,以下のような問題を考えてみます。

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心理学で「物理学」? ―精神物理学入門―

中崎 崇志

ここは心理学コラムなのに,なぜ「物理学」なの? と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし,現代の心理学を知る上で,精神物理学 psychophysics は決して欠かせないものの1つです。心理学は「心の機能の法則性」を明らかにしようとする学問ですが,これは精神物理学でも同じで,外界の刺激とそれがもたらす知覚内容の関係(つまり法則性)を調べます。

1834年,エルンスト・ウェーバー(ヴェーバーとも)が、ある実験をおこないました。それは,おもりを持ち上げてみて,2つのおもりの重さがどれくらい違っていれば「違う」と答えられるのか,という実験でした。心理学の用語で書くと,「丁度可知差異(Just Noticeable Difference; JND)」あるいは「弁別閾(べんべついき)」と呼ばれるものを調べようとしたのです。その後,ウェーバーの弟子だったグスタフ・フェヒナーが「物理量」と「感覚量」の関係を明らかにしようとする学問として「精神物理学」を創始します。

保育所に預けられた子どもは可哀そうか?

前川 浩子

「北陸は“共働き”が多い」、と一度くらい耳にされたことのある方もいらっしゃるのではないかと思いますが、本当のところはどうなのでしょうか? 何となく、経験や実感としてお持ちの方は多いのではないかと思いますが、統計的にはどうなのでしょう。 総務省ではさまざまな統計調査が行われていますが、その調査の基礎的なデータを用いて『社会生活統計指標―都道府県の指標―』という報告書が作成されています。総務省のホームページから統計表もダウンロードすることができます。この社会生活統計指標の人口・世帯という分野に「世帯・家族」の統計表があり、共働きの世帯の割合を知ることができます。

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