心理学特殊講義

心理学特殊講義

木場 深志

特殊講義って、何が「特殊」なんだ?と思われるかも知れません。大学のカリキュラムではごくふつうに使われるコトバなのですが、一般には馴染みのうすいコトバでしょう。講義には「概論」と「特殊講義」があります。たとえば、「心理学概論」といえば、心理学全体について大まかに理解できるように講義をするもので、「心理学特殊講義」といえば、心理学の中のある一つのテーマを選んで、詳しく講義するものです。本でいえば、その本全体についての講義が概論で、目次にある項目の中の一つだけについて講義するのが特殊講義だと思えばいいでしょう。目次の中のどのテーマになるかは担当する教員の専門によって決まり、どの程度細かいテーマにするかは、その講義以外の心理学関係のカリキュラムとの関係で決められます。

今学期の心理学特殊講義のテーマは「臨床心理学」です。臨床心理学とは、教科書的に定義すれば、「心理的に不適応な面や問題行動を持つ人を、より健康な方向に導くことを目的として、心理学および関連諸科学の知見と方法を用いて専門的援助を行う応用心理学の一分野である」といえます。 今学期の講義に含まれる内容は以下の通りです。

臨床心理学とは何か 心理アセスメント(行動観察、面接、心理検査) 異常心理学(精神障害の理解とその治療) 人生の危機への介入法(PTSD、自殺、不登校などの理解とその援助) 発達障害へのアプローチ(知的障害、学習障害などの理解とその援助) フロイトとユングの心理学(無意識の世界を仮定する心理療法) 来談者中心療法(「意識されている自分」を中心にしたカウンセリング) 行動論的アプローチ(条件づけの理論による心理療法) 表現療法へのアプローチ(絵画、箱庭などによる自己表現を利用する心理療法) 集団へのアプローチ(集団の成員どうしの相互作用を利用する心理療法) 地域社会へのアプローチと予防

特殊講義ですから、この中の一つのテーマだけ、あるいはそのテーマの中のさらに細かい部分だけに絞って講義するという方法もあるのですが、今回は、まず臨床心理学の全体像を知ってもらおうと考えて、いわば臨床心理学「概論」に近い内容にしました。まずは観光バスでざっと名所巡りをし、あと、それぞれ気に入ったところは各自じっくり見てもらおうという作戦です。 授業では、まずその回のテーマについてのビデオ(30分程度)を見てもらい、その後で、ビデオではわかりづらいところや要点を説明する、という形をとっています。上記?の講義まで終えたところで、受講している学生に感想を書いてもらいましたので、その一部を紹介します。

・実際にカウンセリングをやっているところをビデオで見ることができて、とてもわかりやすいです。暗いので眠くなることもありますが……カウンセリングにはいろいろな方法があるんだなと思いました。 ・いろんな分野を毎回一つずつ取り上げて授業を進めるので、多くのことを学べるような気がしていい。その中から自分が関心を持った分野をさらに詳しく学ぶきっかけになりそう。 ・いろいろな角度から心理学を見られておもしろいです。この先、子どもの心理について学んでみたいです。 ・私は意識や無意識に関する所に興味があるのでできたらもう少し詳しく知りたいと思った。 ・これからの希望は、いろんな心理療法について学んでいきたい。

写真は「9.表現療法」のビデオの中のカットです。雑誌の写真や絵を自由に切り取って画用紙に貼り付ける「コラージュ療法」と呼ばれる心理療法の作例です。不登校の子どもへの対応に悩む母親の作品ですが、最後の作品の方が初期のものにくらべてずっと柔らかい印象になっていることがわかるでしょう。

参考:この授業で使用しているビデオは、松原達哉監修「ビジュアル臨床心理学入門」(企画・制作・発売 サン・エデュケーショナル)全20巻のうち1〜10です。

心理学演習

心理学演習

前川 浩子

今年度、私が担当している心理学演習では、「個性の発達を理解する、考える」をテーマに授業を行っています。演習のことをゼミとも呼びますが、普通の講義と大きく違うところは、先生が話すだけではなく、ゼミに参加している学生も積極的に発言をして、全員でディスカッションをする、という点だと考えています。 今年度は「個性はどう育つか」(菅原ますみ, 2003)をテキストとして選びました。菅原ますみ先生は、現在、日本で最も活動的に研究していらっしゃる発達心理学者のお一人で、私自身、公私ともに大変お世話になっている先生です。この菅原先生が書かれた「個性はどのように育つか」を読みながら、私たちは赤ちゃんがいかに有能であるかということや、赤ちゃんであっても、生まれたときからさまざまな個性があるということを学んでいきます。 テキストをただ読むことは一人でもできますし、テキストを使って私が授業をすれば、それはいつもと同じ講義になってしまいます。しかし、この授業は「演習」ですから、少し工夫をしています。まず、テキストを章に沿っていくつかのパートに分けて、学生に割り振ります。学生は、割り当てられたパートを、予定の期日までに自分で読み、まとめて、“レジュメ”というテキストの要約プリントを作成し、そして、期日の日に自分でそのプリントを使いながら皆の前で発表を行います。これが発表者に割り当てられた一連の作業です。 「テキストをみんなに発表してもらうよ」というと、最初の反応はかなり悪いものでしたが、それはつまり、どのようにしたらいいかわからないから、そのような反応になるんですよね。それを、「自分が先生になったつもりでやってごらんよ。自分の担当するパートを他の皆に説明して、教えてあげる感じで。だって、これまでたくさん授業を見てきているでしょう?」と言うと、皆、それぞれ自分の力でやれるところまで頑張ってきてくれます。もちろん、難しいところは私が説明を加えますが、今のところ、皆よくやってくれています。何より感心したのは、今まで一人も「できなかった」と言って、何も準備してこないという学生がいなかったことです。つまり、発表に一度も「穴」が開かなかったのです。これは本当に素晴らしいことです。 私は学部、大学院とたくさんの授業、そして演習を受けてきましたが、ある先生がとても印象的な言葉をおっしゃったことを今でも覚えています。大学院の演習では自分の研究発表を行うことが多いのですが、研究に行き詰ってしまい、発表できない学生が時折見られます。そんな学生にその先生はおっしゃいました。「今日のこの時間というのは、あなたの研究のためにとった時間だ。私も、他の院生も、あなたのために、この時間を空けて、この場に座っている。それなのに、あなたは発表できない、という。これがどんなに失礼なことかわかりますか。」この言葉は、研究そのものに行き詰ってしまった院生にとってはとても辛い言葉です。しかし、その一方でこの先生は私たちに「社会人としてのあるべき姿」を教えて下さったのです。 私が考える演習とは、一人の発表者がテキストを読み、まとめ、自分の言葉で発表する、そして、そのテキストについて自分はどう思ったか、考えたかをそれぞれの受講者が意見を言い合い、ディスカッションをする、というものです。それにさらに付け加えると、その演習とはそれぞれの発表者の責任によって成り立っているということを受講者の皆に自覚し、実感してもらいたいと思っています。 この授業は「心理学演習」ですが、今年度、受講してくれている学生の中には、卒業研究を心理学のテーマにしない、という人もいます。そんな学生にとっても、この演習で養うことを目的としている、読む、まとめる、発表する、ディスカッションする、ということを新しい力にしてほしいと思っています。そして、この力は社会人として活躍する上で欠かせないものだと私は信じています。

テキスト 菅原ますみ 2003 『個性はどう育つか』 大修館書店

心理学初級実験

心理学初級実験

中崎崇志

初めて心理学を学ぼうとする人に、『心理学ってどんな学問だと思う?』と、心理学のイメージを尋ねてみると、『他人の心が読める』とか『何を考えているか見透かされそう』という答えが、よく返ってきます。 確かに、メディアに登場する心理学は、心理テストのようなもので人の心――とりわけ恋愛とか金銭感覚などの関心を引きやすい部分を読み取って、それを面白おかしく説明したり、あるいはさまざまな事件にまつわる人の心を逐一説明したりと、『心を読める』学問であるかのように扱われていますね。 しかし、心理学は本来、『心を読む』ことができる学問ではありません。例えば、カウンセラーであっても、初対面の人と、話もせずにいきなりその人の性格がわかるわけではない。心理学は、本当はいろいろな材料・情報を集め、そこから“心の働き(心的機能)”を理解しようとする学問なのです。

心理学における“材料集め・情報集め”に用いられる手法は、いくつかあります。今学期から開講したばかりの『心理学初級実験』では、そのうちの一つである心理学実験の手法を学びます。 受講学生は、被験者・実験者・記録者にわかれて、さまざまな心理現象を、与えられたマニュアル通りに実験して確認します。最終的には、全員が被験者・実験者・記録者のすべての役割を経験します。この作業を通して、心理学実験の手法を身につけていきます。 実験のテーマは、知覚に関するもの、記憶に関するもの、認知機能に関するもの、学習に関するものと、多岐に渡ります。テーマが違えば、それを確認するための手続きも違います。ですから、さまざまな実験を経験することを通じて、今後自分が心理学的な研究をしたいと思ったときに、どういう方法でやればいいかがわかるようになっていくわけです。マニュアルに記載されている手続きは、心理学の世界ではどれも基本的な実験操作ばかりですから、マニュアル通りにきちんとやることで基本が身につきます。 もう一つ、この講義で大切なことは、レポートをまとめること。実験のレポート作成を通じて、データ処理の手法や、客観的で正確な文章の書き方を学ぶことも目的の一つです。自分たちがおこなった実験の結果を整理して図表を作り、それを正確に評価し、その内容を他の人に伝える文章を書く、という一連の作業は、大学を卒業してからも、さまざまな方面で役に立つスキルです。

今学期から始まったばかりのこの講義、今の受講学生たちが“第一期生”ということになりますが、その学生たちの感想を聞いてみましょう。

三島佑介 この講義ではとても変わった実験ばかりしていますが、目的が分かると、すごく面白くて心理学について理解していくのが早くなっていくように感じます。

吉田祐貴 心理学の実験には以前から興味があり、実験の講義ができてよかったと思います。実験は同じ作業が続いて疲れるけど、結果が出たときは、驚きや発見があり、実験した甲斐があったと思わせてくれます。

長谷川陽香 心理学初級実験では、興味深い実験ができて、毎回そのデータを元にレポートを書くので、本当に勉強になります。

暮石麻美 実験をすることでいろいろな発見があって面白いです。でも、レポートをまとめるのに苦労してます。

堀田明希 初めて心理学の実験をするので難しく思うことが多いけど、楽しいです。

森祐美子 一見簡単な実験ばかりだけれど、結果がとても興味深く、心理学の奥の深さを毎回実感しています。

清水聡美 思いがけない実験の結果で驚くことが多い。しかし、その結果が私たちの普段の行動につながっていることだと思うと、とてもおもしろい。

城地庸江 教科書を見て考えるのではなく、考えながら行動するところが他の授業とは少し違う。それは難しいけど楽しい。実験は、実験者であっても被験者であっても記録者であっても、決して楽な役割はない。それだけ一つの実験をおこなうことは大変だと知った。だが、結果を出し、自分の手でそれをまとめ上げ、完成させると、自分たちがおこなった軌跡が残る。それがまたうれしい。そしてまた新しい実験をやってみたいと思う。

沖野大輔 専門分野の実験で少し難しいですが、慣れると楽しいです。

岡野定孝裕 実験後の結果の整理、考察の立て方が難しいです。

中村友美 心理学は何もかも初めての事ばっかりだけど、実験は一番楽しい授業だと思いました。

『長さの錯視』の実験。右の写真のような実験器具を使って、“ミュラー・リヤー錯視”の現象を確認します。被験者は、“<”と“>”の間の線分と、“>”と“<”の間の線分が等しくなるように調整するように指示されます。器具の裏には目盛りがついていて、どれぐらいの錯視が起こったかわかるようになっています。

『大きさの恒常性』の実験。実験者は、左の写真のように実験器具を配置し、被験者(背中を向けている人)に、奥の三角形と手前の三角形が同じ大きさになったところで合図をしてもらいます。二つの三角形の距離は、3m、5m、10mの三通り。距離によって、三角形の大きさの見え方が変化するかどうかを検討します。測定の順番は、右の写真の記録者が決めて、実験者に伝えます。

実験の順番待ちをする間はレポート作成。国内で刊行される心理学の学術論文の書式にしたがって執筆します。“自分のレポートを読んだ人が、まったく同じ実験をもう一回できるように書く”のが基本。電卓やパソコンを駆使してデータを整理し、グラフや表を見比べたりしながら、結果を正確かつ客観的に報告します。 [...]

現代英語研究?−新たな改良2006年度版

現代英語研究?−新たな改良2006年度版

リック・ブローダウェイ(訳: 中島 彰史)

私はいつも楽しくいろんなことをディスカッションしています−友人や同僚や学生と。ディスカッションというのは生命力を持ったものです。つまり、それは、意見や考えという小さな種から端を発し、自分自身がいろいろと思考したりや理解したりした事柄をまきながら大きくなっていくからです。光を求めて伸びたり、また、あちこちに触手をのばし栄養となるものを捕らえたりします。到達点がどこなのか、どんな発見があるのかは誰にも本当の所分かりません。これが面白くてワクワクする気持ちを作り出すのです!更に、ディスカッションの途中ではどんなことでも起こりえます。例えば、話題からそれたり、秘話を話したり、言葉遊びをしたり、冗談を言ったり、主張したり、見栄を張ったり、感情が高まったり、爆発させたりするのです。ディスカッションは、スピーチや講演と比べると、いささか混沌としていて、非生産的でとても民主的な場合がよくあり、また時には人生を左右することもあります。ディスカッションは、他の点はともかく、とても人間らしい活動なのです。これが、上級クラスの語学の授業でディスカッションを授業の中心的活動に新たに据えようと決めた理由の一つです。教育者はこのような授業のやり方を議論的だとか双方向的だとか評しているのが普通です。私はむしろ簡単により人間的だと考えた方がいいと思っています。そして、授業をまさにそうしたい−より人間らしいものにしたい−のです。

私は現在新たな授業計画を試みています。様々な学習目的や学習活動を取り入れたものですが、その中心には学生たちが教室で有意義で充実したディスカッションができるよう動機づけを与えたいという強い望みがあります。このようなクラスでは、英語(英語の形式や文法)は勉強の目標にはならず、会話の中で用いる、互いが取り決めを交わした言葉にすぎません。学生は英語を使うことによって英語を学び、話の内容に注意を払っているから英語を使うことになるのです。

この場合重要な問題は次のことです。どうしたら学生たちに話の内容に注意を払ってもらえるかということです。そーですね、現実的に考えて、学生全員に授業中ずっと気を張らせるのはまず無理だろうということは誰しもが認めざるを得ません。しかしながら、ディスカッションをしている学生の何人かでも授業を成功裏におさめられるようにすることは実際には可能だと私は信じています。このことを達成するには、授業のあらゆる面、特に授業内容に関して、学生たちにもっと自由や選択権、そして主権を与えなければならないと思っています。

ここで鍵となる教育用語を二つ−学生中心の(student-centered)教授と内容を基盤にした(content-based)教授−導入させてください。この教授法はどちらも新しいものではありませんが、その実践面での難しさから有効性の点で辛酸をなめてきました。いろいろと問題点があるのです。例えば、教室運営、授業内容の運用、学生の意識をこの種の教室環境に適応させることなどです。このような問題点の多くは結局一つのこと−教師の仕事が更に増えること−を引き起こします。それなら、教師の多くが、これらの方法論の成果が教師の苦労の分に全く見合わないと結論付けて、このようなやり方の授業を取りやめにするのも当然です。

このような訳で、この計画に費やす私の努力は、学生中心で内容を基盤にした教授法に伴う負担を少なくすることに向けられています。試験的授業用の主な構成ツール(これをContribution Mapと呼びます)を調べることができます。私のホームページに行って、“ITU Project”というタイトルの見出しをクリックしてください。例えば、“Surrogacy”という見出しをクリックすれば、Cmap Toolsというソフトを用いて作ったウェブページが見れます。学生は授業中コンピュータを使わないということをご理解ください。というのも、もしコンピュータを使うと相手と顔を合わせて直接ディスカッションをする作業の妨げになる可能性があるからです。その代わりに、Contribution Mapを使って、授業に何かしら提供するにはいつどうしたらいいかが学生にとって分かるように導いていくようにします。Contribution Mapはまたこのような特定の見出しに関して提供した事柄全てを保存する場所としての役割を果たします。

レッスン1で、学生は現実の状況と教師の説明を聴き取るというだけの作業をします。(学生がその現状を学習し、話の基本的部分を理解し、必要な関連語彙を身に付けてからでないとディスカッションは実際にはできません)レッスン2では、学生はスピーキングの諸活動を通じてディスカッションという作業をします。また学生は概念地図(Concept Map)作成に取り組み始めます。概念地図とは、例えば代理出産に関連するような、学生たちの現在の知識状態を図で表したものです。(“knowledge map”の下のアイコンをクリックすれば調べることができます)下調べに学生はその話に関連するさまざまな分野の情報源(新聞記事、詩、引用文、法律など)を提供します。それから、その提供されたものを私がContribution Mapに貼りつけていき、インターネット上にリンクさせます。レッスン3では、ライティングスタイル(要約、報告、比較など)の中から一つ選び、話の種を決め、ひとまとまりの文章を書き始めますが、その文章はレッスン1で提示された現状か学生が提供した情報源かに絞られるかもしれません。レッスン4では、学生は書いた文章をお互い読み合い、教師から意見をもらい、様々な分野の観点から話題をディスカッションします。学生が書いた文書はその後集められ、のちの学生が参照したり、参考にしたりすることができるようにContribution Mapに付け加えられます。

この授業によって、学生が興味をそそられ自らの学習過程にもっと関わりを持ってもらうこと、そして、関連内容を選択したり、自らの認識を築き上げたり、関心を寄せている話題をめぐって学生自身の考えや感情を伝えたりする際にもっと重要な役割を学生に与えることによって、もっとディスカッションにかかわれるよう学生たちに自信を持ってもらうことになればと願っています。

この授業は上級コースの選択科目ですから、履修しようとする学生は授業中英語しか話さないという心構えができている必要があります。

Modern English Studies II – New and Improved for 2006!

Modern English Studies II – New and Improved for 2006!

Rick Broadaway

I have always loved discussing things with friends, with colleagues, with students. A discussion is an organic thing: it starts from the small seed of a comment or idea, and then grows as people sprinkle it with their own thoughts and perceptions. [...]