無名のバスケットボールプレイヤー

松田 祐華

  ホームスティを始めてから一週間ちょっと、私はホストファミリーであるエイドリアンの息子のザクと一緒にオークベイスポーツセンターへ行く事になった。私は日本から水着を持ってきていないと話すと、彼の奥さんのルーシーが私に水着を貸してくれた。途中でザクの友達を拾い、私達はスポーツセンターへ向かった。夜なので外が暗かったが、ライトアップされた建物はとても綺麗だと思った。

 私達はプールだけを利用するので、真っ直ぐ更衣室に向かおうとしたらザクの友達が25セント硬貨を私に差し出した。何に使うのかと聞くと彼は「ロッカーにはお金が必要だから」と教えてくれた。実は入場料を払うとき私はサイフを忘れてきてしまったのだ。その場はエイドリアンに立て替えてもらったが、その事を彼は覚えていた。10歳年下にも関わらずしっかりした子供だと思った。いよいよ更衣室に入ると私は初めてカナダの空港に降り立った時トイレの扉の足元が見えるのと同じ衝撃を受けた。

 全員、更衣室の中を土足で歩いていたのだ。日本と違い室内を靴で歩く習慣を持つ彼らは当たり前であるが、日本人である私は「汚い」と思わずにはいられなかった。ついでにロッカーに必要なコインは50セントだった。

 プールに行くと、彼らは既に水上バスケを楽しんでいた。ここの施設にはジャグジーと2つのプールがあり、最も大きなプールサイドには滑り台等遊具が揃えられていて、奥にはウォータースライダーも置いてあった。一人でいるのもつまらないと私は彼らと混じって遊んだ。身長も高くなく、童顔の日本人なので周りからは何の違和感も無かったであろうと思いたい。ある時、ボールが遠くに飛んでしまい一人の男性の近くに落ちた。渡してもらおうとザクが近くに行くとその男性はボールを拾い上げいきなり片手で3Pシュートを決めてしまった。私達3人は突然の行動にあっけにとられた。

 そしてゴールをきめた男性は私達の近くにやってきて、英語でなんだか話しているうちに仲間に加わってしまった。その後は係員に終了時間を告げられる迄、2対2でひたすらゲームをしていた。

 着替えて入口に戻ると、彼らは飲み物を飲んでいた。私は使わなかった25セント硬貨をザクの友達に「サンキュー」とつけ加えて返した。最後に泳いだのは一昨年の夏だったので体力の無い私の体はクタクタだ。帰り際に一緒にゲームをした男性について二人に尋ねると、どちらも知らないと言われた。お金をかしてくれたり子供の遊びに加わったりとカナダは随分フレンドリーな国だ。そもそも明日仕事があるエイドリアンも進んで私達を此処へ連れきたり、公共施設に充実した遊び道具が用意されているあたり、カナダは子供にしい国だと思う。日本の教育方針はこれから個性を伸ばすために動くといわれるが、その前に個性を伸ばせる土台を作れる場所をもっと用意すべきだと感じた。

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