中島 彰史

 いきなりですが、「トソガン」「キョシル」「ウンドングジャング」これは、韓国語の或る単語の発音をカタカナで表記したものです。意味は想像つきますか。<学校>で用いられる単語なのですが、正解は、「図書館」「教室」「運動場」です。日本語と発音が似ていることが分かりますね。このあたりの事情を説明すると、中国で作られた文字(漢字)の形<漢字の字形>や意味だけではなく、その音(オン)も日本語や韓国語に流入し、漢字からなる単語(漢語)がたくさん日本語や韓国語の語彙の中に存在しています。そして、漢字の音は<漢字音>と呼びますが、日本も韓国もその漢字音はともに中国の隋や唐の時代の音とのつながりが深いので、日本語の漢字音と韓国語の漢字音が互いに似ているのは当然のことと言えます。さらに、日本語と韓国語で意味が共通する単語がたくさんあります(勿論、意味が微妙に異なっているものもあります。例えば、「遠慮」という単語。韓国語では<先々のことまで見通してよく考えること>という意味で使います)。上にあげた三つの単語は漢語で、こういった背景があるので、発音からどういう意味の単語かが日本人には想像がつきやすいのです。

ハングルの構造 韓国語の文字のことをハングルと言います。ハングルはローマ字のように母音や子音を表す特徴を持っていて、かつ、仮名のように子音と母音が組み合わさって文字を作るという特徴を持っています(例えば、右図(注1)を見てください)。また、日本語で用いられている音と韓国語で用いられている音は勿論違いますが(例えば、日本語には「カ行」の子音は一つしかありませんが、韓国語には<息を少し伴うカ><息を激しく伴うカ><息を全く伴わないカ>の三つあります)、上記のような事情から、漢語の発音の対応関係にある程度規則性があります。その規則性を知っていると、初めて出会う韓国語の単語でも、その意味が分かることがあり、文脈や状況が与えられると更に意味が分かりやすくなります。ここで知っておいてほしいことがあります。日本語には、普通漢字に、<音>と<訓>があります。<音>は、中国から伝えられ日本的に変化した漢字の音。<訓>は、漢字の持つ意味のうち日本で社会的の固定された読み方。例えば、<山>という漢字は、「サン」という<音>と「やま」という<訓>を持っています。韓国語には、<訓>が昔はあったのですが、今では残っていません。また、日本語では同じ漢字が複数の<音>を持っていることが普通です。例えば、「音」という漢字。「オン」と「イン(例 福音書)」という二つの<音>がありますね。一方、韓国語の漢字には原則<音>は一つしかありません。

 今から、対応関係を示す規則を母音に限っていくつか説明します。以下の対応関係では、「A→B」は韓国語のAという発音は日本語ではBに対応するということを表します。韓国語の発音はカタカナで、日本語の発音はひらがなで示すことにします。

韓国語の発音と日本語の発音の対応関係(母音編)
1   ア → あ
2   イ → い
3   ウ → う or  ゆう(ゆー)
4   エ → あい or えい  <「え」に対応することもあるが少ない>
5−1 オ → お or う  [日本語の漢字「図」には、「と」「ず」の二通り(「お」と「う」)の音がある]
5−2 オ → え  <「お」に対応することもある>

※注「オ」と聞こえる母音には、「口をすぼめて前に突き出して言うオ」(5−1)と「口を縦に大きく開けて言うオ」(5−2)の2種類があります。

6 その他  ワ → あ or わ    ヤ → や    ユ → ゆ    ヨ → よ

 それでは、上記の対応関係を手がかりにして、下の(  )の中の漢字を推測して入れてみましょう。太字になっている音の漢字です。

・チャ 差(  )
ス (  )秀
イン (  )人 [「恋人」の意味]
・ソク 石(  )
ミョング (  )名 [下線部の「オ」は5−1のオです]

 正解は、順に、異、優、愛、油、汚です。

 1〜6は母音に関する対応関係の規則の一部分に過ぎませんが、更に詳細な規則や子音に関する規則も知っておくと、語彙の習得にとても重宝します。例えば、先ほどの「トソガン」は、規則を知っていると、「ト→と」「ソ→しょ」「ガン→かん」のように日本語の発音を導き出せるのです。外国語の習得で苦労することはその外国語にもよりますが、たいていの場合、単語(の発音や意味、使い方など)を覚えることです。その点で、韓国語は日本人にとって有利な外国語と言えるでしょう。また、中国語の<音>との対応関係に見られる規則性も考えると、中国語−韓国語−日本語の間に広がる大きなロマンのようなものを個人的には感じます。こういったことを知ることも、コトバの勉強の楽しさに含まれると思います。

注1 『はばたけ!韓国語』 野間秀樹・村田寛・金珍娥著 朝日出版社

 

参考文献

『朝鮮の漢字音の話』 菅野裕臣著 神田外語大学韓国語学科共同研究室

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