すてきなクリスマス・プレゼント ―『クリスマス・キャロル』―

木梨 由利

 街には軽快な「ジングルベル」のメロディが流れ、クリスマスがあとしばらくでやってきますね。そんな季節にちなんで、今月は、イギリス小説「クリスマス・キャロル」(A Christmas Carol, 1843)の世界を覗いてみましょうか。

 主人公のスクルージは、金貸しで守銭奴のおじいさん。今日も、クリスマス・イブだというのに、石炭をけちったために体が凍りつきそうに寒い事務所で、事務員のボブ・クラチットと二人でせっせと仕事をしています。甥のフレッドがクリスマスの食事会への招待に来ても、「クリスマスなんてくだらん!」と断るし、二人の紳士たちが貧しい人達のための寄付を頼みに来ても、「わしの知ったことじゃない」と、けんもほろろに追い返します。何でそんなのが主人公なのって、ふしぎに思うかもしれませんけれど。

 さて、その夜、スクルージの前に、かつての共同経営者、マーレーの幽霊が現れます。生前金貸しの仕事に励みすぎた報いとして、死んでから7年間、重い鎖をつけて、天国へ行くでもなく地獄へ落ちるでもなく、ずっと旅を続けているのだとか。ここへやってきたのは、商売仲間だったよしみで、スクルージが自分のようにならずに済むようにするためで、彼のところへ翌日から毎夜3人の精霊が相次いでやってくると告げて姿を消します。

 現れた精霊たちは、それぞれ「過去のクリスマス」、「現在のクリスマス」、そして「未来のクリスマス」の精霊で、ひとりずつ、スクルージを、彼の過去、現在、未来へと連れて行きます。貧しくても幸せな気持ちでクリスマスを祝えたのに、いつかお金への欲にとりつかれ、恋人に去られた過去、彼からもらうささやかな給料に感謝をし、けちんぼの主人のために乾杯してくれる事務員のボブや、悪態をつかれてもなお暖かい気持ちを持ち続けてくれるフレッドをないがしろにし、クリスマスを祝う町の賑わいにも頑なに背を向けている現在、そして、自分がもうこの世になく、冷たい墓地に葬られている未来。誰一人悲しむものもいず、それどころか、借金が帳消しになったことに人々が狂喜するような死後の光景をみせつけられて、すでに、以前の人間らしい気持ちを次第に取り戻しかけていたスクルージは、心を入れ替えることを誓います。

 ふと気がつくと、彼は自分の寝室にいます。窓をあければ空はすっきりと晴れ、そして、なんとも不思議なことですが、今日はまだクリスマスだというではないですか!!改悛するのにまだ遅くはありません。彼は早速クラチット家に大きな七面鳥を届けさせ、前日追い返した紳士たちに多額の寄付を申し出、クリスマスを祝いにフレッドの家へと向います。こうしてスクルージは、あまりの変わりようを時には周囲に笑われながらも、親切で思いやり深い人間になっていくのです。そう、強欲で偏屈だったおじいさんの変貌ぶりは、「クリスマスには隣人を愛そう、そして自分も幸せになろう」というメッセージを、決してお説教口調にならずに伝える意味をもっているのです。

 作者のチャールズ・ディケンズ(Charles Dickens, 1812-70)はイギリス小説の巨匠ですが、自分も幼い頃に貧しさに苦しんだ経験を持ち、虐げられた弱者たちに終生暖かい視線を注ぎ続けました。代表作とされるものの多くは、社会のさまざまな問題に鋭く切り込み、時には諷刺やユーモアも利かせながら、写実的に描いた長編小説ですが、それらとは異なる味わいを持つ「クリスマス・キャロル」もまた、子供から大人まで、世界中の多くの読者に愛されてきました。彼は、31歳のときから死の3年前まで、クリスマスの贈り物として、ほぼ毎年一作ずつクリスマスにちなんだ物語を書きましたが、「クリスマス・キャロル」はそんな作品群の最初のものなのです。

 この物語を原作とする映画等の映像作品も、実写版はもちろん、アニメ版やら、バレエ版、マペットを用いたものなどいろいろありますが、筆者が最近見たミュージカル版(原題:Scrooge, 監督:ロナルド・ニーム 主演・アルバート・フィニー)はとりあえずお薦めです。歌もダンスも楽しいし、何よりもスクルージの心の変化がとてもユーモラスにわかりやすく描かれています。笑っているうちに、ついつい感情移入させられて、最後のフレッドのホーム・パーティでの場面では、ほっと心が温まるような……。

 こんなすてきなクリスマス・プレゼント、皆さんも、ぜひぜひ楽しんでみてくださいね。

テキスト
チャールズ・ディケンズ(著) 小池滋(訳) 「クリスマス・キャロル」『クリスマス・ブックス』 (ちくま文庫、1998).
Charles Dickens, “A Christmas Carol”, Christmas Books (Oxford Uni. Press) 他.
ビデオ
『クリスマスキャロル』(Schrooge:A New Musical)(CBS/FOX株式会社、1990)他.

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