「薬」といっても色々あります−名詞の意味について考えてみましょう−

中島 彰史

 以下に挙げるのは様々な「薬」を表す単語です。

  「風邪薬」   「粉薬」   「胃薬」   「眠り薬」   「塗り薬」   「せんじ薬」

 どんな薬なのかはわかると思いますが、言語学的に考察してみると、全て「○○薬」という形になっているという点では共通していますが(つまり、「○○」という要素と「薬」という要素から成り立っている)、「○○」と「薬」との間に成立する意味の面では違いが見られるものがあります。例えば、「風邪薬」の場合、「風邪」という要素は、その薬がどんな病気を治すためのものかという点を指定しています。この点は、「眠り薬」や「胃薬」も同様で、「眠り薬」は「眠り」という効果をもたらす薬であり、「胃薬」は「胃の病気」を治すための薬と考えられます。つまり、これら三つの薬は、「○○」の要素が薬の目的・機能を明らかにしていると言えます。「粉薬」の場合は、「粉」が「薬」の姿・形がどんなであるのかという点を指定しています。「塗り薬」は、「粉薬」と同様に、「塗るようにして用いる」つまりは軟膏のような薬、つまりは「薬」の形状を指定していると考えた方が良いでしょう。「せんじ薬」の場合は、「煎じ」がどのようにしてその薬を作ったかを指定しています。つまり、「薬」というのは人間がある目的のために作り上げたもので、目に見えるものです。そこから、「どのような目的のものなのか」「どのようにして作られたものなのか」「目に見えるものなので、どのような形状なのか」という観点から様々な「薬」を指定することができ、それを表す単語が用意されている、ということです。このことは日本語に限らず他の言語でも言えることです。例えば、英語で考えてみましょう。以下に挙げるものは前の要素にpaperが付いている単語です。

  paper clip   paper money   paperboy   paper weight

 前の要素paperの働きを、「○○薬」の例にならって、見ていきましょう。paper clip(書類クリップ)の場合、clipが「ばらばらのものを一つにまとめておくためのもの(道具)」であることから、paperは「何を一つにまとめておくか」の「何」の部分を明らかにしています。paper money(紙幣)では、moneyの材質が何であるのかをpaperが指定しています。paperboy(新聞少年)は、「新聞を配達することを仕事にしている少年」という意味であることから、paperは何を配達するか、配達するものを指定しています。この場合、paperが「紙」の意味ではなく、「新聞」の意味であること(cf. paper company(製紙会社))や「配達」という何らかの活動が加わるだけ、正しい意味解釈がそれだけ難しくなっています。paper weight(文鎮)のpaperは、「重みによって何かを押えておくもの」のうちの「何」を指定しています。

 以上、日本語の「○○薬」、英語の「paper ○○」の例を見てきましたが、大切なことは、単語の意味が形成される時、何らかのパターン(「規則性」と言ってもいいかもしれません)に従っているということです。上の例で行きますと、何らかの点で情報を明確化する・指定する(勿論、それ以外の点に関しては曖昧のままです)ということです。そして、何を明確化しているのかが用いられている要素から引き出されるということです。このことは単語の意味解釈に関わるだけではありません。例えば、文を作る時にも大切なことです。以下の文にはuseが用いられています。

  • You use a knife to cut bread?
  • Mary has used soft contact lenses since college.
  • Plants use carbon dioxide and give off oxygen which humans use.
    (植物は二酸化炭素を吸い、酸素を放出し、人間はそれを吸っている)

 useは日本語の「使う・用いる」に対応することが多いのですが、上の例文に当てはめてみましょう。「ナイフを使う」この日本語はOKですね。二番目の例文。「コンタクトレンズを使っている」これも言えるでしょうが、「コンタクトレンズをはめている」もOKです。ところが三番目の文では「使う」は使えませんね。use=「使う」ではないことが分かります。useは主語にとって役に立つような働きや機能を目的語が持っていて、その働きや機能が発揮できるようにする、という時に用います。ナイフの働きは物を「切る」ことですし、コンタクトレンズの機能は「目にはめて物がよく見えるようにする」ことですし、二酸化炭素や酸素はそれぞれ植物や人間が生命を維持するために不可欠ですから、役に立つものです。このように文を作る際にも、動詞と一緒に現れる名詞が持つ意味的な情報は大切なのです。

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