「何故ここに来たんですか」の英文

中島 彰史

 英語研修の引率でカナダに3週間近く行って来ました。その時いろんなことを発見しましたが、例えば市バスのドライバーに朝は決まってGood morningと挨拶をし、店のレジの人にはお釣をもらった時に決まってThank youと答え、レストランでメニューを持ってきてくれたらやはりThank youとお礼を言っている自分に気がつきました。日本にいる時は、上記の状況では何も言わないか「どうも」とか言ってお茶を濁す私ですが、海外に行くと挨拶を交わすのです。外国語だと、逆にスッとコトバが出てきやすいというのが理由の一つなのですが、その反面、そのコトバには内実が伴っていなくて表面的に過ぎないような気もします。反省すること大いにありです。閑話休題。

 「何故ここに来たんですか」という意味を英語で表すとしたら、普通Why did you come here?と言うでしょう。勿論この英語で意味は十分通じますが、主語の所にyouが来ているこの英文は「あなた」に関して焦点が置かれ、「あなた」のことを尋ねる、例えば、「あなた」に対して行為の責任を追及するイメージ、「あなたは何故こんなことをしたんだ」という、相手の感情を逆なでしかねない意味を持つことがあります。その意味で使っているのなら問題ありませんが、無用な誤解は引き起こさない方がいいでしょう。それなら、普通に理由を聞く場合は何と言えばいいのでしょうか。それは、What made you come here?です。makeはこの場合「ある状況<あなたがここに来るという状況>を作り出す」という意味を表しています。そして、主語の所にはwhatが来ています。つまり、whatに焦点が置かれ、「あなたがここに来る」という状況を何かが作り出したことを前提にし、その何かとは何か、つまり、ここに来た理由を尋ねている、無色透明の、感情的には中立の文になっているといえます。ところが、更に、What brought you here?という文を用いることもできます。動詞のbringは「持ってくる・連れてくる」という日本語に対応する、移動を表す動詞ですが、移動の結果、到着点にいることに焦点が置かれ、また、主語も一緒に移動する<I’ll bring my holiday photos.では、主語のIもmy holiday photosと一緒に移動することが分かりますよね>イメージがあります。whatに焦点が置かれているのは前の文の同じですから、この文は、「あなたがここに来ているのは何をするためですか、ここでの目的は何ですか」つまり、ここにいる用向きは何ですか、というような意味を持ち、相手に対して心理的な距離を置いた文になっています。

 日本語は主語が表面上現れないことがよくあるので気づきにくいのですが、英語では主語の所に何を持ってくるかという視点が非常に大切です。特に、文が表す状況を作り上げているものの中に人間が含まれているにもかかわらず、主語の所に無生物が来ている文<この文のことを「無生物主語構文」などと言ったりします。上記のwhatで始まる文が「無生物主語構文」の例です。>が実際の会話の中でどのように用いられているのかを丹念に見ていくと英語らしい感覚が身について行きますよ。

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