新村 知子

 「目は口ほどに物を言う」という言葉があるが、初対面の人と話をした場合、その人が発する言葉以上に、目線、表情、体格、しぐさ、服装などが、その人の印象をより強く残したという経験は誰にでもあることであろう。

 コミュニケーションにおいて、非言語メッセージの果たす役割がどの程度重要かは、研究者にとって意見の異なるところである。ある実験結果では、対人コミュニケーションにおいて言語メッセージが占める割合は 35 %程度、残りの 65 %は非言語メッセージによるそうだ。また、別の研究では、 7 %が言語、 38 %が音声の特徴、 55 %が顔の表情によるということである。この数字は驚くべき高さである。非言語的要素は、我々が考えるよりずっと重要な役割を果たしているのかもしれない。

 では、我々が違う文化に属する人とコミュニケーションを取る場合に、自分の意図を適切に伝え、さらに対人関係を円滑に保つためには、どのような非言語的要素に注意したらいいのであろうか、少し考えてみよう。

 まず、誰でも気づくのが、アイコンタクトである。日本の文化では、目上の人と話をする場合、あまりまっすぐ相手の目を見ることは少なく、胸のあたりに視線をおくのが普通である。しかし、英語の文化では相手の目を見て話すということが、正直さ、誠実さをあらわすと考えられている。そのため、英語での会話やスピーチの時にうつむき加減だった日本人が、「信用できない」とか「自信がないようだ」と誤解を受けるということが少なくないので気をつけよう。反対に、帰国子女が日本の小学校でしかられている時に、まっすぐ先生の目を見ていたために、反抗的な態度をとっていると誤解されたということもあるようだ。

 イントネーションも重要である。例えば、外国人にとって「日本語はあいまいである」とよく言われる。よく言われるのは、「けっこうです」「そうですねえ」という日本人の返事が、 Yes 、 No のどちらか分からないということである。しかし実際の場面では、日本語の母語話者同士で話している限り、ある状況で、特定の「そうですねえ」について、それが肯定的な返事か、否定的な返事かについて、誤解されるということはほとんどない。母語話者にとっては、その状況、言った時のイントネーション、顔の表情や視線などを考えれば、その意味は明らかなのである。つまり、これらの発話が誤解を生むというのは、文字通りの意味以外のメッセージを、非母語話者がうまく認識・解釈できないという点から来るのであろう。同様に、英語の特定のイントネーションが、文字では表せない付加的な意味を持つということももちろんある。言語の意味は、文字通りではなく、状況やイントネーションによって大きく左右されることを忘れないようにしよう。

 その他、日英の比較として興味深いものに、あいづちがある。あいづちは、日本語なら、「そう、そう」「ええ」「はい」という合図、あるいは無言の頭の振りを示して、「どうぞ、続けてください」というシグナルを出す、あるいは会話のリズムを話し手双方で共有しようとする機能を持つ。実際、英語にも ”Right.” “Yes.” “Uh huh”  のようなあいづちは存在する。しかし、頻度が日本語よりずっと低い上、ただ「続けてください」というシグナルを送ったり、会話のリズムを共有したりという意味で使われるものではなく、主に強調のために使われる。つまり、英語を話しているときに、日本語のようなあいづちを頻繁に入れたり、頭を縦に振ったりしていると、相手が不思議に思うということを覚えておいてほしい。また、自分がしゃべっているときに、相手からあいづちが返ってこなくても、アイコンタクトで「聞いていますよ」というシグナルが来ている限り、そのまま話を続けてよいのである。これも、自分が話している間中、相手が頭を振ったり、音を出してくれていることに慣れている日本人にとっては、居心地が悪いことも多いのである。

 その他にも、接近距離、しぐさ、服装、立ち方など、非言語的要素が文化によって解釈が違う点はいろいろあり、とても興味深い。しかし、これらを様々な文化についてマスターし、話す相手によって使い分けるというのは、誰にとっても、できないことであろう。  

 最後に、シンゲリスが提唱している非言語コミュニケーションを成功させる三つの秘訣を紹介しよう。

  1. 解釈を急がないこと。思い込みによって早まった解釈をしないようにすること。
  2. 自分の文化の非言語コミュニケーションに気づくこと。
  3. 相手の非言語コミュニケーションに合わせること。

 このうち3番目は少々難しいかもしれないが、最初の二つは、自分が少し柔軟になり、客観的な思考をすることによって、可能なことであろう。知らない人との会話が苦手だったり、英語に不得意意識を持っている人でも、これらの非言語コミュニケーションをよく知ることにより、会話が楽しくなり、より前向きな人間関係が作っていけるのではないだろうか。

参考文献

  • 古田暁監修、『異文化コミュニケーション』 1987 年、有斐閣選書
  • リージャー・ブロズナハン、『しぐさの比較文化―ジェスチャーの日英比較』 1988 年、大修館書店
  • 泉子・ K ・メイナード、『会話分析』 1993 年、くろしお出版
  • 八代京子他、『異文化トレーニング―ボーダレス社会を生きる』 1998 年、三修社

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