川畑 松晴

 BICSとCALPという用語に、第二言語習得論のある論文で出会ったときに、その軽やかな音の響きからあるものを連想した。疲れた頭に浮かんだのはビックス・ドロップとカルピスソーダだった。学生諸君はカルピスは知っていても、ビックスは聞いたことも、勿論食べたこともないであろう。ビックスは私の記憶では、赤・緑・白などのカラフルな色合いで、果物風味の固い飴玉(木梨先生はのど飴ではなかった?と言っておられたが)。包み紙にはVicksと綴られていたかもしれない。それなら、Bで始まるbiscuitを連想してもよかったのに。でもいまだに、私の連想は甘い香りのドロップだ。カルピスとの相性はビスケットの方が良さそうなのにね。

 さて、閑話休題。
 近年、わが国の英語教育界では「使える英語」力、文部科学省の「学習指導要領」の用語では「実践的コミュニケーション能力」の養成が強く求められている。やや誤解を恐れずに、分かりやすく言えば、英会話力である。わが国の従来の「受験英語」を変えるためにも、この方向を私も一応は支持している。
 これをタイトルに関連させて言うと、ビックスの重視ということになる。BICS はBasic Interpersonal Communicative Skillsの頭文字をつないだもの。「対人コミュニケーション基本技能」とでも訳そうか。名称通り、日常生活で必要とされる、母語では5〜6才で子供達が習得すると言われる言語技能のことである。一方のCALPはCognitive/Academic Language Proficiency、すなわち「認知/学習言語能力」で、読み・書きを中心とするより高度の言語能力を言う。J. Cumminsというアメリカの研究者が1980年代初頭に提案した、言語能力の二分法である。母語であろうと外国語であろうと、人の言語能力にはこの二つの異なる側面があるという。これにも同感。

 さて、皆さんは、多くの日本人と同様に、まず日常生活に関係する事柄や自分の想いを英語で表現したい、即ちビックスを習得したいと考えていることであろう。そのためにはどうしたら良いのでしょうか。これを提案しなければ私の責任は果たせないね。

 結論的に言うと、わが国のような、英語を日常的に使う必要のない国でビックスを習得するのは容易ではありません。(Cummingsによれば、アメリカ等英語母語圏への移住者の子供の場合、BICSは2年くらいで自然に習得してしまう。一方CALPには少なくとも5年はかかるそうです。この場合の習得のルートはBICS⇒CALPです。)BICSには英語との不断の接触(exposure/contact)が決定的に重要なのです。ふつうに教室で学び、その予習復習だけでは到底不可能です。

 しかし、カルピスいやCALPなら可能です。頭(認知力)を使い、すでに身についている日本語力を援用しながら聴く・読む・書く能力を高めることは日本のような言語環境でも可能です。従来の受験英語の勉強との違いはその目標でしょう。皆さんの目標はインターネット上での読み書きを含むコミュニケーション能力を伸ばすことですから。英語母語圏での第2言語学習とは異なる、両者の相互作用、即ちCALP⇔BICSが我々には必要なのです。CALP的能力が備われば、BICSは慣れだけです。必要に迫られれば必ずできるようになります。

 CALPには「グラマー」という一見とっつき難いが実はなかなか魅惑的な食材が必須です。これを中心として骨格が形成されれば、語彙やイディオムは枝葉です。何とか想いを通じさせるためのBICSドロップを嘗めながら(口頭)、CALPソーダを飲み(消化/理解)、グラマーを食べる(骨格形成)、これがわが国の「コミュニケーション」メニューの3大栄養素です。お試しあれ。

(※編集者注:ビックスドロップ VICKS Drop は、木梨先生の意見が正解。川畑先生が書いているのは「サクマドロップ」です)

Comments are closed.