「トーテムポール」のはなし

益子 待也

トーテムポール
 今年の7月初めに、東京のNHKの奥秋さんという人から電話がかかってきて、カナダのハイダ・インディアンの「トーテムポール」について知りたいので、教えてほしいという。毎週土曜日に放映されている『探検ロマン 世界遺産』という番組で、世界遺産としての「トーテムポール」の番組を作るのだそうだ。
 ちょうど7月には、わたしも網走の北方民族博物館で「美術の人類学」と題して、「トーテムポール」を含めた美術様式に関する研究発表を行う予定だったので、網走に来てわたしの発表を聞いてみませんかと答えたら、本当に7月に網走で出会うことになった。

 網走では他にも、多くの懐かしい顔に出会うことができた。夜は飲み会で、その後はみんなで二次会のカラオケとお定まりのコースとなった。その頃の奥秋さんはハイダ族や「トーテムポール」について、あまり知識をお持ちではなかったようにお見受けしたのだが、11月8日に放映された彼の番組を見て、わずか2、3か月の間に、よく勉強されて、現地でもしっかり取材されていたのには驚いた。

 11月8日(土)の8時からNHKで放映された『探検ロマン 世界遺産』は、「ハマグリから生まれた人々の記憶 ―― カナダ・スカン・グアイ ――」という題で、カナダのブリティッシュ・コロンビア州のクイーン・シャーロット諸島のひとつであるスカン・グアイという島の「トーテムポール」の遺跡を主題として取り上げた番組であった。
 スカン・グアイの「トーテムポール」は今日では、もうかなり傷んでおり、修復もされていないので、まさに「朽ちていく世界遺産」である。世界遺産は数々あるが、「朽ちていく世界遺産」、それもまったく修復されず、崩壊していくにまかせている世界遺産というのは珍しい。ただ、現地に住むハイダの人々は、スカン・グアイ島にある「トーテムポール」が朽ちはてていくのはむしろ自然なのだと考えているようだ。
 ハイダの人々は、朽ちていく世界遺産であるスカン・グアイの「トーテムポール」から、かつて自分たちの祖先が建造した「トーテムポール」のデザインと精神(スピリット)を学習し、自分たちの文化的伝統を復興させようと頑張っている。ある意味で、それはルネッサンスでもある。
 現代のハイダの有名なシルクスクリ−ン版画家であるロバート・デイヴィッドソン氏は次のように述べている。「伝統が継続できる唯一の方法は、新しいことを発明し続けることである。」(“The only way tradition can be carried on is to keep inventing new things.”)

 1983年から2000年に至るまで、わたしはカナダやアラスカで、何度もフィールドワークを行ってきた。この地域に住む先住民の「氏族」や「家」は独自の「紋章」を所有しており、「トーテムポール」には、そんな「紋章」が表現されていることが多い。
 ヨーロッパ人と接触してから、ハイダを初めとするこの地域のインディアンは、天然痘やアルコール中毒や梅毒や糖尿病などの蔓延により、人口が激減した。かつてトーテムポールが林立していたスカン・グアイが無人島になったのも、天然痘の流行が原因だったのである。

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