中崎 崇志

 みなさん,初めまして。4月から教員になった中崎崇志(なかざき たかし)です。心理学関係の科目を担当します。
 今回が国際文化学科HPデビュー戦です。今後とも,どうぞよろしく。
 今回は,私の専門領域である実験心理学について御紹介します。


 心理学の研究方法の一つに“実験”がある。『心理学に,なぜ実験?』と思う人も多いだろうが,私は心理学の世界に踏み込んで以来,ずっと実験系の心理学者だ。
 心理学は,“心の働き”について解明し,理解しようとする学問。“心の働き”を調べる方法はいくつかあるが,心理学実験はその中の一つだ。

 実験というと,“薬品”とか“試験管”とか“顕微鏡”とか“滑車”とか,そんな言葉が思いつく。酢酸カーミン溶液で染色したタマネギの細胞を顕微鏡で観察するとか,水酸化ナトリウム水溶液の電気分解とか,石灰水は二酸化炭素で白く濁るとか,そういうのが実験っぽい。生物や化学の世界だ。

 しかし,心理学実験の場合は,そうはいかない。“心の働き”は,目に見えない。質量も持たないし,長さを測ることもできない。染色して顕微鏡で観察するわけにもいかない。物理的な実体を持たないのだ。
 物理的実体を持たない“心の働き”を,どうやって測定するのか――このややこしいテーマを,実験系の心理学者はいろいろ工夫して,何とか実現する。この『何とか実現する』までの過程,つまり実験の計画を練るプロセスこそが,心理学実験の難しさだが,同時に一番の面白さでもあると思う。
 実験がうまくいくかどうかは,測定内容に適していて,予期せぬ邪魔(実験誤差と呼ぶ)が入らない,巧妙な手続きを考えられるかどうかにかかっている。うまくいくと,実験計画を練る作業が楽しくなる。アイデアも次々とわいてくる。ふと浮かんだ疑問を,どうやれば実験的に確かめられるだろうかと,大真面目に考えてしまうこともある。
 ……こんなことを書くから,某先生に頭の9割以上が実験でできていると言われるのか(笑)。

ストループ効果
 図1は,実験の例を簡単に示したもの。ストップウォッチを用意。
 (1)は,四角形に着色された色の名前を読み上げる課題。『四角形が何色で塗りつぶされているか』を答える。左上から出発して,それぞれ左から右へ横に読んでいく。15個読み上げるのにどれくらいかかるか計ってみよう。
 (2)は,色名単語(漢字)に着色された色の名前を読み上げる課題。『文字が何色で書かれているか』を答える。同じく左上から出発して,左から右へ読んでいく。こちらも読み上げにかかる時間を計ってみよう。

 (1)は簡単だ。しかし,(2)はどうだろう?
 ついつい,書かれた文字をそのまま読み上げてしまう。文字の色を読み上げられたとしても,最初の一言目が出るまでもたついてしまったり,途中でつっかえてしまったりする。結局,同じ15個の読み上げ(しかも各色の読み上げ回数も(1)と同じ)なのに,時間がよけいにかかってしまう。
 この現象は,『ストループ効果』と呼ばれている。J.R. Stroopが1935年に発表し,以来,いろいろな心理学の分野で扱われてきた。
 (2)のような,色名単語とそこに着色された色が不一致な刺激(実験の材料)を『ストループ刺激』と言うが,こういった巧妙な刺激や手続きを思いつくことこそ,実験研究の醍醐味なのだ。

 さて,このストループ刺激を使って本格的に色の命名課題をやってみると,色名単語を使ったときは,ただの四角形を使ったときよりも読み間違いが多く,命名にも時間がかかる,ということがわかる。
 この『読み上げの正確さの違い』や『読み上げにかかる時間の差』を,『心の中でおこなわれている何らかの処理の差』と考えれば,“心の働き”を,実際の数値(=正答率や読み上げ時間)に置き換えられたことになり,『色名単語を使ったことが,色の命名のための心的処理を複雑にしている』という結論を導くことができる(本当は,結論を導く前に統計処理をきちんとやって,それも含めて判断する)。
 そして,四角形と色名単語の“性質の違い”を踏まえ,心理学的な考察をする。
 これで実験研究は一通り終了,ということになる。

 では,この『ストループ効果』の実験からわかる“心的処理”とは,いったい何か?
 みなさんなら,どう考察しますか? 下のヒントを参考に,考えてみてください。

ヒント:
・英単語を使っても(例えば“yellow”を「red」と答えさせる),同じ効果は見られる。
・しかし,英語を理解できない人では,英単語を使うと効果が現れない。
・色の名前を理解していない子どもでは,日本語でも英語でも効果は現れない。
・“”や“”,“”でも,ストループ効果は現れるか?

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