プライバシー意識に関する日中両国の差

林 暁光


 日本人は、人との付き合いにおいて、他人のプライバシーのことをあまり尋ねない。たとえ親しい友だちであっても、相手の言いにくいことは、普通こちらから進んで聞いてはいけない、と考えている。他人のプライバシーに触れることは相手に不快感を与えるから、というのがその理由だろう。だが中国人は、繊細というよりも活発で、しかも強い好奇心を持っており、何でも根ほり葉ほり聞くのが好きである上に、話を胸の中にじっと納めておくのは好きではないのである。中国では、「話は腹に閉じ込めると臭くなる」という諺があるくらいだから。

 近代的国家をすでに構築した日本では、人間関係も近代的社会の様相を呈し、バラバラの原子化状態になったようだ。個人に関わるデータは、ほとんどプライバシーの範疇に入っている。人々の年齢はもちろん、収入とか、家族構成とか、婚姻状況や住所、職業、電話番号、個人の趣味、興味、体重、身長などまで、みんなそれに当たる。私は学院大で勤務を始めてもう10年経ったが、周りにいる多くの同僚たちの詳細――たとえば結婚したかどうか、どこに住んでいるか、何歳なのか…などなど――は、あまり知らず、こちらから進んで調べることでもない。知られているものは、相手の性別ぐらいかもしれない(これは隠せない唯一の情報?)。時に少し寂しい気持ちになることもあるが、それは仕事に関しては、支障が出ない限り、別に悪いこととは思われない。

 他方、中国では、近代化がかなり速いテンポで進んでいるが、多くの面でまだ前近代的社会である。言い替えれば村社会にとどまっているようなものである。はじめて付き合う人に対して、中国人は、相手に自分を早く理解してもらいたいので、自分の年齢、職業、婚姻、趣味、好みなどを相手に教えてあげる。と同時に彼らは相手のいろんなことも知りたがるのであり、これは双方の共通の話題を探した上、相互信頼の関係を作ろうとするためである。中国では、人々はしばしば「故郷はどこですか」、「おいくつですか」、「ご結婚されましたか」、「どうしてまだ独身なのですか」、「ご家族は何人ですか」といった質問を互いによくする。日本人から見ると、それはまるで警察の事情聴取のようだが、中国人同士の間では、このような質問が必ずしも相手を困らせるわけではない。聞かれた者が答えにくいような場合、意識的に話題をそらしていけば、それ以上聞き出そうとはしないはずである。要するに中国人からみれば、ものにこだわらない、開けっぴろげな人間がより人に親しまれるのである。

 中国人には、現代社会にふさわしいプライバシー権利の意識がまだ確立されていないため、外国人との交流が広がりつつある今日では、異文化との間に何らかの摩擦が不可避的に生じてくるだろう。中国人が平気で他人のプライバシーについて聞く習慣に、中国で仕事をする外国人は悩まされている。なぜかというと、外国人が自分の年齢、婚姻及び経済収入などを他人に教えようという意識はないので、熱心で好奇心旺盛な中国人を前にして、彼らは時々どうしたらいいのかわからなくなるからである。

Comments are closed.