人間文化への招待

益子 待也

 私が担当している科目は、文化人類学、比較文化論、日本民俗学、比較文化演習、比較民俗学演習などです。どれも、難しそうで、古くさそうな感じがするかもしれません。
 しかし、そんなにむずかしいものではなく、どれも、人間の身の回りにある身近なテーマを扱う学問分野です。日本や世界のいろいろな地域で暮らしている人々の生活を研究することを通じて、人間とはなにかを学んでいく学問なのです。

 わたし自身は、歴史的なアプローチが好きです。というのも、日本や世界のある地域の文化を知るためには、その地域の歴史を知っていなければならないと思うからです。しかし、歴史はあまり重要ではなく、今の人々の生活を学ぶことが重要なのであって、人々の生活の中に入っていくことが最も重要なのだと考える人類学者もたくさんいます。わたしはそのような考え方も好きです。

 わたしは、これまで南東アラスカに14回行っています。わたしが訪れるのは大都市ではなく、太平洋に浮かぶアラスカの小さな島々であって、たとえばチチャゴフ島、アドゥミラルティー島、アネット島、クイウ島などです。それらの島々には小型飛行機やフェリーで行くのですが、昔は空港がありませんでしたから、海の上に小型飛行機が着水して、ゴムボートで島まで行ったこともあります。

 南東アラスカの島々には、トリンギット・インディアンやツィムシアン・インディアン(アネット島のみ)と呼ばれる人々が住んでいます。トリンギット・インディアンの生活を調べているうちに、わたしは「ギーシュト」というトリンギットの名前をもらい、あるトリンギットの夫婦の「養子」になりました。しかし、2001年にその夫婦が離婚してしまったので、今は彼らの家に泊めてもらいにくくなりました。

 わたしが「フィールドワーク」を行った地域は、アラスカ、カナダ、中国雲南省、それに日本国内では、石川県七尾市、石川県鳥越村、新潟県岩船郡山北町、八丈島、青森県下北半島の脇野沢村などです。わたしはまた、ブータン、沖縄、朝鮮、ロシアなどにも興味があります。ロシアのサンクトペテルブルグやイルクーツクには一度行ってみたいと思っています。

 ところで、わたしが研究している文化人類学や民俗学は、けっして「未開人」の「奇習」を研究する学問ではありません。たしかに文化人類学という学問分野は、そうとられてもしかたのない歴史を持っていることもたしかなのですが、今はアメリカやカナダやヨーロッパや日本の、それも大都市の研究などもたくさん行われています。ですから、今や奥地の未開民族の研究から、世界の文化や文明のあり方を研究する学問に変わって来ています。現代文化人類学が扱うテーマは多種多様で、食や住まいや観光や開発や環境といったテーマから,カラオケやプロレスやコンピューターといったテーマまで幅広い内容を含んでいます。
 わたしのゼミからは、これまで、「フランス系カナダの研究」、「ニューヨークにおけるユダヤ系移民の研究」、「日本中世における名前の観念」、「温泉発見伝説の研究」、「日本表現史における夢概念の変遷」、「カラスの民俗学」、「リカちゃん人形の研究」など幅広い内容を含む卒業論文が書かれています。ちなみに、今年わたしが担当する学生の卒業論文のテーマは、「ブータンの文化」、「日本文化における桜の象徴性の変遷」、「ピアノの文化史」、「日本文化とお茶」などです。

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