発達障害について

木村 敦子

『発達障害に気づいて・育てる完全ガイド』(黒澤礼子,2007,講談社) 近年、発達障害という言葉をよく耳にするのではないでしょうか。2005年に発達障害者支援法という法律が制定されました。ここで障害というのは、日常生活や社会生活に制限を受けることと捉えられています。つまり、生活をしていく上でいろいろと困ることをかかえているということです。この法律では、発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」と定めています。
 文部科学省関連の報告書等によるそれぞれの定義と、多いといわれている特徴は以下の通りです。

 自閉症(Autistic Disorder)

「自閉症とは、3歳くらいまでに現れ、【1】他人との社会的関係の形成の困難さ、【2】言葉の発達の遅れ、【3】興味や関心が狭く特定のものにこだわることを特徴とする行動の障害であり、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される」

 話しかけても視線が合いにくく、他人の存在を意識しない、人とのかかわりがもてないなどがいわれています。乳幼児期には母親が抱いても目を合わせなかったり、身体をそらして嫌がることもあります。逆に人見知りを全くせず親から離れても平気であったりします。同年代の子どもたちの中でも一人で遊び、それが寂しくなさそうです。コミュニケーションがとれず、誰かが「あれをみて」といって指差しても見ることをしなかったりします。ある特定のものにだけ強い興味を持ったり、同じ事を繰り返す傾向もみられます。

 高機能自閉症(High-function Autism)

「高機能自閉症とは、自閉症のうち、知的発達に遅れを伴わないものを言う」

 アスペルガー症候群(Asperger syndrome)

「アスペルガー症候群とは、知的発達の遅れを伴わず、かつ、自閉症の特徴のうち、言葉の発達の遅れを伴わないものである。なお、高機能自閉症やアスペルガー症候群は、広汎性発達障害に分類されるものである。」

 自閉症に比べて対人関係以外では、ある程度、適応の力があります。親しい友達はあまりいないことが多く、突然場にそぐわないことを発言したりすることもあるようです。他者との社会的なかかわりに質的な特性があるのです。共感性がうまく働かず、感情の共有がしにくいなどです。例えばクラスマッチに勝って全員が喜んでいても一人で無表情だったり、悲しい映画を見てもみんなと一緒に悲しむことができません。相手の気持ちを感じる想像力が弱いため、相手の気持ちに配慮できず、自分の興味あることだけを話し、会話がかみ合わないなどのこともあります。特定の音や状況に非常に敏感だったり、身体の動きがギクシャクして運動がうまくできなかったり、手先が不器用で小さなボタンをはめることが苦手だったりすることもあります。
 自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群、広汎性発達障害、高機能広汎性発達障害などの問題を総称して自閉症スペクトラムということがあります。共通の種類の困難をかかえていると考えられるからです。

 学習障害(LD:Learning Disabilities または Learning Disorder)

「学習障害とは、基本的に全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、計算する、推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を指すものである。学習障害はその原因として、中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となるものではない」

 医療の領域では、「読み」「書き」「そろばん(計算)」のどれか、あるいは複数ができない人をlearning disorderと呼びますが、教育の領域ではもう少し広く、「読み」「書き」「そろばん」に加えて「聞く」「話す」「推論する」能力の問題を持つ人も含めてlearning disabilityと呼んでいます。どちらも頭文字はLDです。
 知的には問題がないのに、書かれた字がどうしても読めないとか、計算がダントツにできないとか、本人は頑張っているのに、勉強とか運動が部分的に著しくできません。
 それが障害によるものとは気づかれにくいので、怠けているとか、わざとやっているなど、性格の問題にされてしまったりします。

 注意欠陥多動性障害(ADHD:attention deficit/hyperactivity disorder)

「ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される」

 注意の集中・持続時間が短く、注意を向ける方向が変化しやすい。多動性というのは、まさに動きが多いことで例えば授業中にたびたび席を離れるとか、教室を飛び出すと言ったタイプや、手足をもじもじしたりキョロキョロしたり、いすからずり落ちたりするタイプがあります。衝動性は、順番が待てなかったり、他人の行動に割り込んだり、イライラすると我慢がきかないことです。年齢が上がるにつれて多動性は目立たなくなりますが、衝動性や集中力の欠如、持続力の不足は残ります。

 

 

「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態調査」(文部科学省) 2002年に文部科学省が全国実態調査をおこなったところ、小・中学校の通常学級の児童生徒のうち、LD、ADHD、高機能自閉症により学習面や行動面で特別な教育的支援を必用としている者が約6.3%の割合で存在する可能性が示されました(右図参照。クリックすると拡大表示します)。これまで発達障害については特別に配慮がされていなかったので、この子達は障害についてあまり知識や理解のない学校や生徒の中で、いろいろな誤解や不当な扱いを受けながら過ごしている可能性もあります。それぞれの子どもたちの状況に合った支援が必要です。この数値にもとづけば、各学校の1クラス(30~35人)には2人か3人は支援を必要とする子がいるということになります(担任教諭に対する調査であり、医学的に診断されているわけではありません)。
 学校教育現場では、平成19年4月から、発達障害の子どもたちに必要な支援、教育的配慮を行う特別支援教育制度の正式な実施が始まりました。

 発達障害は、最近新しく出てきた障害ではありません。昔からこのような困難をかかえた人たちはいました。今成人している人の中にも、発達障害のせいで生活し辛く思っている人がたくさんいるはずです。でもそれが障害のせいであると本人も気づいていない場合もあると思われます。

 何年か前に「片づけられない女たち」という本が話題になりました。この本は、これまでだらしなさの現われと理解されてきた「片づけられない」という特性は実はADHDの障害によるかもしれないという可能性を唱え、アメリカでベストセラーになりました。現在では、遅刻や忘れ物が多かったり、段取りを考えられなかったり、ポイントを絞るのが苦手であれもこれもになったり、目先のことにとらわれすぎてしまったりというような大人のADHDの人向けの本が日本でもたくさん出ています。
 また、映画の「イン・ハー・シューズ」を見た人にはお分かりと思いますが、この映画の主人公はLDで、他のことはなんでもないのに、書かれた字が読めなかったり、計算ができない。それで苦労する話です。アメリカではLDが社会的に認知されていて、「レインマン」で有名なトム・クルーズや、「ゴースト」という映画に出てくるウーピー・ゴールドバーグという俳優さんが、自分はLDであると明かしているそうです。2人ともディスレクシア(読字障害)と呼ばれる障害を持っていて、書かれた字が理解できないのでセリフを覚えるのにすごく苦労したとのことです。LDは例えば文章が「きっさからほれてきたので、めれたものがかれさました」と見えてしまうようなことだと説明している人もいます(本当は「さっきから はれてきたので、ぬれたものが かわきました」と書いてあるような場合)。

 アスペルガー症候群の中にはちょっと変わっているけどある分野に詳しい専門家として世の中でうまくやっている人も多いと言われています。例えば、Windowsを作ったマイクロソフト社のビル・ゲイツ、音楽家のエリック・サティ、ピーター・ラビットを生んだベアトリクス・ポターもアスペルガー症候群ではないかと言われているそうですし、アインシュタインやレオナルド・ダビンチなど天才と呼ばれる人の中にもアスペルガー障害の片鱗がうかがえるそうです。言われたことを表面上の意味で捉えたり、融通が利かなかったり、こだわりが強かったりすることが他の人に奇異な印象を与えることがあります。あるサークルの忘年会の幹事をやらされて、「今年の忘年会は盛大にやりたいから、全員呼んできてください」と部長に言われた大学1年生が、入院中の部員のところへ行って、点滴している彼のベッドサイドで「明日忘年会に必ず出てください」と言ったり、廊下でタバコを吸っていた初対面の学生たちに向かって、未成年はタバコを吸ってはいけないからやめなさいと、順番にしつこく注意していって殴られたりという実例があるそうです。
 これらの障害はいわば、生まれつきその人が持っている脳の特徴なのであり、性格とかしつけなどの問題ではありません。でも、このような障害を理解していない人にとっては、親の育て方が悪いとか、わがままとか、能力がないとか、わざとやっているとか、ととられることがあり、それが本人たちをより苦しめることになっています。本人自身も社会でうまくいかないのは自分の責任と思っていることもあるのです。
 周囲の理解やサポートによって、発達障害の人もより困難を感じることを少なくして生活していくことが可能です。そのような意味のバリア・フリーをめざすために、まず発達障害についての正しい理解が必要です。

 

参考文献

福田真也(発行・監修) 2008 『あなたも「アスペルガー症候群」かも?』(パンフレット) 相州メンタルクリニック中町診療所
長谷川寿一他 2008 『はじめて出会う心理学』 有斐閣
甲南大学カウンセリングセンター・学生相談室 2007 『教職員のための学生支援ガイド 発達障害をもつ大学生の理解と支援のために』(非売品)
黒澤礼子 2007 『発達障害に気づいて・育てる完全ガイド』 講談社

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