見ているだけで好きになる?

中崎 崇志

 人間は,自分の周囲の多くの人たちとの関係を保ちながら生活しています。心理学では,記憶や知覚だけでなく,このような他者との関係におけるさまざまな要素も研究しますが,これらの研究は主に“対人社会心理学”の分野でおこなわれます。対人社会心理学が取り上げる人間どうしの関係には,さまざまなものがあります。不特定多数の他者との関係もあれば,特別な個人との関係もあります。不特定多数の他者との関係とは,例えばネットの掲示板やチャットでのやり取りや,最近流行のオンラインゲームなどがそうですし,特別な個人との関係とは,親子関係や友人関係,職場の同僚や学校の同級生との関係などを指します。

 社会心理学が扱う人間関係・対人関係のあり方を整理していくと,大雑把な分類としておよそ「個人と個人の関係」,「個人と集団の関係」,「集団どうしの関係」のようなパターンになります。例えば「個人と個人の関係」についての研究では,印象形成や対人魅力,個人空間などが研究の対象になり,果ては恋愛感情までも数値化して研究します。
 今回はその中から“好意”に焦点を当てて,有名な研究を紹介しましょう。私たちは,日常生活の中でさまざまな情報に接しています。それらの情報によって,何かを気に入ったり,嫌いになったりすることがあります。スーパーで買い物をしているとき,繰り返しCMで流される商品についつい目が行ったり,メディアへの露出が多いタレントの好感度が高くなったりすることがありますよね。ここで紹介するのは,このような(おそらく)最も単純な形,すなわち“見ているだけで好意的になる”ことに関わる研究です。

 

【何度も見かけるだけで好意を持つ?:ザイアンスの研究】

図1.接触回数と好意度の関係 ロバート・ザイアンス(Zajonc, R. B.)は,『単なる接触の反復で好意的な態度が生まれる』という仮説を立て,4つの実験をおこないました(Zajonc, 1968)。このうち3番目の実験では,未知の人物の顔写真を使い,その写真との接触回数とその人物に対する好意に関係があるかどうかが検討されました。
 実験に参加したのは大学生で,彼らが見知っていない12人の大学生の写真を刺激として用意しました。参加学生には「見せられた写真をどれくらい正確に記憶しているかを調べる実験である」と告げ,12枚のうち10枚の写真を,1枚につき2秒のペースで無作為に86回提示します。名目は「記憶の実験」ですが,ザイアンスの本当の目的は接触回数と好意の関係を調べることなので,提示が終わったら各写真に対する好意度を0〜6の7段階で評価してもらいます。
 実は,すべての写真には提示回数(=接触回数)が決められていて,0回,1回,2回,5回,10回,25回の6条件に,それぞれ2枚ずつ割り当てられていました。提示回数が0回の2枚は,好意度評価のときに初めて見せられる写真です。その他の10枚は必ず1回以上は見ているわけです。
 結果は,図1の通りになりました。横軸に接触回数,縦軸に好意度評価をとると,接触回数が増えるにつれて,好意度の評価も高くなっているのがわかります。評価のときに初めて見せられた提示0回の写真に対して,25回見せられた写真の好意度は,1ポイントあまりも高くなりました。
 会ったことのない人物の写真に対して形成された好意が,その人物の人柄や性格とは無関係に,単に繰り返し見せられたことによって変化している,というこの結果を,ザイアンスは『単純接触効果 mere exposure effect』<と呼びました。

 社会心理学は,現実の生活で生じるさまざまな出来事を,対人関係や集団のあり方を元に分析することを目的とする心理学の分野です。
 この単純接触効果(あるいは『単なる接触の理論』)も,“ザイオン効果”という名称になって,マーケティングの世界で知られています。例えば,最近流行の“アフィリエイト”がそうです。ブログなどに商品広告を貼りつけるアフィリエイトでは,広告を貼りつけたブログのオーナーに収入が発生します。アクセス数の多いブログほど,アフィリエイトで儲けることができるのですが,これは広告主にとっては,商品がよく売れるようになるからです。
 アフィリエイト商品がよく売れるようになる理由はいくつかありますが,そのひとつとして「繰り返し同じ商品の情報に触れる」という単純接触効果があると考えられています。

 

参考図書

齊藤 勇(編) 1987 『対人社会心理学重要研究集(2) 対人魅力と対人欲求の心理』 誠信書房
Zajonc, R. B. 1968 Attitudinal effects of mere exposure. Journal of Personality and Social Psychology (Monograph supplement) , 9, 1-27.

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