結果が悪いとやる気は出ない?

中崎 崇志

もっと努力すればいいのかな? 私たちは,日常生活の中でいろいろなことを経験します。あることをして,それが成功なのか失敗なのか,それが非常に気になる場合もあれば,そもそも成功だの失敗だのを考える必要がない場合もあります。
 さて,みなさんは,以前失敗したことをもう一度やらなければならないとき,どう考えるでしょうか。「今度こそ成功してみせる」と意気込むでしょうか。それとも,「また失敗しそうだし,やりたくないなあ」と消極的になるでしょうか。

 成功や失敗の経験は,その結果自体が意味を持つのですが(以前このコラムに書いた“強化”と“罰”の話を思い出してください),実はその結果をもたらした“原因”をどうとらえるかによっても,その後の意気込みや消極性が変化することがわかっています。心理学では,この原因のとらえ方,言い換えると『ある出来事の原因を何に求めるか』を,“原因帰属”と言います。

 社会心理学者のフリッツ・ハイダーは,原因帰属の理論を最初に提唱した心理学者です。ハイダーは,原因の帰属先(帰属因)を『内的か外的か』に基づいて分類しました。内的帰属とは,自分の能力や性格に原因を求めることで,外的帰属とは環境,状況など,自分の周囲の問題に原因を求めることを言います。
 その後,多くの研究者が,ハイダーの理論に関連する研究をおこないましたが,その一つに,ベルナルド・ワイナーの理論があります(Weiner et al, 1971)。
 ワイナーとその共同研究者たちは,ある課題を達成するときの成功・失敗の原因として能力,努力,運,課題の困難さの4つを想定し,これを“統制の位置(内的/外的)”と“安定性(安定的/不安定的)”に基づいて分類しました(表1)。安定性は,その原因が常に存在するかどうか,や,変わりやすいかそうでないか,というようなことを意味します。例えば,“能力”という原因は,自分の『内的』なもので,しかもそう簡単に変化するものではないので『安定的』ということになります。一方,“運”は,自分の『外』にあって,かつ『一時的なもの』にすぎないので,『外的で不安定的』な原因,と考えるのです。ワイナーは,その後この理論をさらに発展させています(Weiner, 1979)。

 では,やる気が出るか出ないかを,ある高校生の『中間テストの英語の点が悪かった』という失敗を例に考えてみましょう。
 以前紹介した“強化”と“罰”では,失敗は“罰”に近い働きを持ちます。罰を受けると,罰の対象になった行動が一時的に抑制されるので,しばらくは勉強する気がなくなります。しかし,失敗したら,絶対にやる気は起こらないのでしょうか。

表1.ワイナーらの原因帰属に基づく帰属因の分類 今度は,表1(クリックすると拡大表示します)に示したワイナーの理論に沿って考えてみましょう。
 まず,“課題の困難さ”とは,この場合テストの難しさです。これは先生が決めることで,生徒はどうしようもありません。『いくら勉強したって,先生がそれよりも難しい問題を作ったら,どうしようもない』と考えてしまったら,勉強する気が起こらないでしょう。“運”も自分の力ではどうにもなりません。『勉強したって,次も運が悪いことだってあるし』と考えたら,やはり勉強する気にはなれません。“課題の困難さ”と“運”は,いずれも統制の位置が“外的”です。外的な帰属は,やる気を起こす方向には向かないようです。
 残りの2つは“内的”帰属ですが,これらには安定的/不安定的の違いがあります。もし,『失敗の原因は自分の能力不足である』というふうに考えたら,これは“能力”帰属です。この例では,英語の学力が“能力”です。これは,伸びないわけではないけれど,短期間で,それこそ中間テストと期末テストの間ぐらいの短い期間で一気に伸びるわけでもありません。がんばっても,効果がすぐにテストの結果に現れるかどうかは,やや疑問です。だから,能力は“安定的”帰属因なのです。がんばってもすぐに変化が起こらないなら,勉強する気はさらに低下する可能性もあります。
 一方,“努力”は自分次第でどうにでもなる上,今回の失敗が『今回たまたま努力が足りなかったからだ』と考えれば,次はもう少し努力すれば成功できるかもしれない(これを結果期待といいます)と思えるはずです。したがって,どちらかというと勉強に取り組む気持ちの方が強くなる,と考えられます。
 つまり,自分が失敗した原因のとらえ方次第で,たとえ失敗してもやる気を出すことはできるのです。

 心理学では,何か行動を起こそうとする心の働きを“動機”と言い,動機を持つことを“動機づけ”と呼びます。やる気が出るのは,動機づけが高まっている状態です。成功すること=“強化”には,行動の動機づけを高める作用がありますが,その結果をもたらした原因の考え方次第で,動機づけはさらに変化していきます。単に成功した,失敗した,ということにとらわれるのではなく,『どうして成功したのか』,『なぜ失敗したのか』の理由づけが,やる気をコントロールするのに役に立つのです。

 さらに,こんな主張をしている研究者がいます。同じ出来事について,楽観的に考える人と悲観的に考える人では,悲観的な考え方の人は失敗しやすい,というのです。これは,“学習性無力感”で知られるセリグマンの主張で,文庫にもなっています。原因のとらえ方が変わるだけで,人生がずいぶん楽しくなるようですね。

参考図書

マーティン・セリグマン(著) 山村宜子(訳) 1994 『オプティミストはなぜ成功するか』 講談社文庫
Seligman, M. E. P. 1991 Learned optimism: How to change your mind and your life. Arthur Pine Associates Inc.
 英語版は,現在複数の出版社からハードカバーとペーパーバックが出版されています。CDやカセットもあるようです。

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