子どもの論理性を測定する難しさ 〜ピアジェによる保存課題〜

前川 浩子

ピアジェの保存課題 子どもはいつ頃から、ものごとを論理的に考えられるようになるのでしょうか。今回は、スイスの心理学者ピアジェ(Piaget, J.)の理論を参考に考えていくことにします(右の図は、クリックすると拡大表示します)。

 ピアジェは、自分自身の子どもの様子を観察することで、子どもが持つ自然に成熟していく能力と環境に対する相互作用との関係に興味を抱いたと言われています。子どもは生まれたときから、受動的な存在なわけではなく、外界に積極的に参加する能動的な存在で、外界に対し実験を試み、その結果何が生じたのかを観察する「有能な科学者」である、とピアジェは考えたのです。ピアジェによると、知的能力は4つの質的に異なる段階を経て発達していくとされています。第1期が感覚運動段階(0〜2歳)、第2期が前操作段階(2〜6, 7歳)、第3期が具体的操作段階(7〜11歳)、そして第4期が形式的操作段階(11〜成人)となります。

 まず、感覚運動段階(第1期)では、外界への能動的な働きかけの中から、自分の動作とその結果との関係を認識するようになります。例えば、テーブルの上のぬいぐるみを押し出すと落ちる、ボールを布団の上に落とすと弾まないが、硬い床の上に落とすと弾むといったようなことを発見していきます。
 また、私たちは例えば、目の前のぬいぐるみの上にハンカチを被せられ、隠されたとしても、ぬいぐるみがハンカチの下に存在し続けているということを知っています。これを「対象の永続性」に関する概念と呼びますが、この概念も、感覚運動段階に獲得されます(この概念に関しては、ピアジェは10ヶ月にならないと獲得されないとしましたが、現在では3ヶ月の乳児でも獲得しているのではないか、とされる研究もあります)。

 そして、第2期の前操作段階、そして第3期の具体的操作段階に共通する重要な概念が「保存」の概念です。保存の概念とは、「物の数量はその形が変わったとしても、同じままである」という理解のことです。ピアジェは、前操作段階にある子どもたちは、この保存の概念を獲得することが難しく、具体的操作段階になると獲得することができると考えたのです。

 数の保存の場合は次のような手続きで進めます。まず、おはじきを2列に等間隔に並べます。そして、どちらの列も同じ数であることを確認させます。その後、子どもの目の前で一方の列のおはじきの間隔を広げるか、またはつめて並べます。並べ替えた後、もう一度子どもに「2列のおはじきの数は同じかな? それとも違うかな?」と聞いたときに、間隔が広いほうの列のほうがたくさんある、と答えた子どもは数の保存が成立していないということになります。

 ピアジェは数の保存に関しては6〜7歳にならないと成立しないとし、列全体の長さにひっぱられて、おはじきが多いと答えてしまう前操作段階の子どもは論理的にものごとを考えることが難しいと考えたのです。しかし、本当に幼児は非論理的なのでしょうか?
 現在では、このピアジェの課題に幼児が失敗してしまうのは、子どもが非論理的だからではなく、課題に問題があるのではないかという指摘があります。ピアジェ課題では、まず2列のおはじきを等間隔で並べた後に、「2列のおはじきは、同じかな? それとも違うかな?」とたずね、一方の列の間隔を変化させた後にも、もう一度、「2列のおはじきは、同じかな? それとも違うかな?」と、同じ質問が繰り返されます。子どもは同じ質問を繰り返されると、最初の答えは間違っていたのではないかと思ってしまい、二度目のときに答えを変えてしまうのではないかと考えたシーガル(Siegal, M.)は、質問を繰り返さずに実験を行い、3〜5歳児であっても、通常の手続きの場合よりも多くの子どもが正しく答えられることを示しました。

 私も6歳1ヶ月と、7歳11ヶ月の女の子に数の保存の課題を試してみましたが、2人とも簡単にクリアしていました。興味深かった点は、6歳児では、列を広げた後に、もう一度数えなおして、「同じ」と答えていたのに対して、7歳児では、数えなくてもすぐに、「同じ」と答えました。「なぜ、そう思ったの?」と聞くと、「何も足していないし、へらしていないから」と明確な理由も答えることができていました。
 一方、量の保存は少し困難でした。量の保存の場合では、同じ大きさの2つのコップに同じ量の液体を注ぎ、2つのコップに入っている液体の量が同じであることを確認させた後、一方のコップの液体を子どもが見ている目の前で形の違う(大きさの違う)コップに移し替えます。そして、「2つのコップのお水の量は同じかな? それとも違うかな?」と聞いたときに、見た目の液体の背の高い方を多い、と答えた子どもは量の保存が成立していないということになるのです。
 同じ2人に量の保存の課題についても試してみましたが、「違う」と答えてしまうのです。しかし、注意深く質問をするなどしてみると、どうやら「量」という言葉の意味がわかりにくいようで、「水面の高さが違っている」という意味で「違う」と答えているような気がしました。そこで、移し替えた後の状態のコップを指して、「じゃあ、この2つのコップに入ったお茶を、まこちゃんとかほちゃんに1つずつあげる、って言ったらけんかになるかな?」と言ってみたところ、7歳児のほうでは少し考えてから、「ああ、同じだね。さっきのコップには同じだけ入っていたから、入れ替えただけだから、同じ。だから、だいじょうぶ(けんかにならない!)」と答えました。
 やはり、課題ができないことが、そのまま子どもたちが論理的にものごとを考えられないことにはつながらないようです。そして、子どもが理解できるように課題を作るということも、とても難しいことなのだということも実感しました。

 さて、11歳をすぎると、形式的操作段階となり、具体物がなくても、抽象的で仮説的な面で組織的にものを考えることができるようになるとされています。また、言語や記号だけで論理的な思考を進めることができるようになるのです。

 以上のような段階を経ながら、子どもは大人と同じようなものの考え方ができるようになるとピアジェは示しました。確かに、ピアジェ理論に対する批判もあります。しかし、保育や教育の領域にピアジェの理論が与えた貢献もまた大きいのではないでしょうか。

数の保存課題(左)と量の保存課題(右)の様子

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