前川 浩子

 ご存じのように、わたしたちの生活の中には、誰かしらとの関わりが存在しています。「いつも誰かと一緒にいないと寂しい」という人もいれば、「ひとりでいるほうが好き」という人もいるでしょう。しかし、「ひとりでいるほうが好き」という人でも、お腹が空けば買い物に行かなくてはなりませんよね。自分以外の人である店の人にお金を払う、という「やりとり」が必ず行われます。現代では、まだ、自動販売機だけで事が足りる、というところまでには至っていませんから、やはり、誰かとの関わりなしでは生活することが難しいといえます。
 人づきあいが得意という人もいれば、苦手という人もいるかもれません。では、わたしたちはどのようにして、誰かと関係を築くということができるようになっていくのでしょうか。

 対人関係にはさまざまなものがあります。友達との関係、恋人との関係、先生との関係、同僚との関係、きょうだいとの関係、夫婦関係、etc…。たくさんの関係の中で、わたしたちにとって最初に築かれるのが親子関係です。今回はこの親子関係における最初の変化について見ていきたいと思います。

自我のめばえとともに、作業に熱中することもあります 生まれてからおよそ生後18ヶ月くらいまでを乳児期と呼びますが、この頃の赤ちゃんは生まれたその日から目も見えており、耳も聞こえ、味やにおいの区別もつくという、わたしたちが想像している以上にとても有能な存在です。しかし、赤ちゃんは自分だけで食事をすることも、排泄をすることもできません。つまり、運動・生理的には非常に未熟な存在です。そこで、赤ちゃんたちは「かわいらしさ」(2006年6月の心理学コラム参照)と、生得的愛着行動(2006年12月の心理学コラム参照)などを駆使して、養育者から適切な養育を引き出そうとします。養育者は子どもの生命維持装置として、暖かなコミュニケーションと、安全、健康、栄養、清潔などを与えてくれることになります。この時点では、赤ちゃんと養育者との親子関係は、赤ちゃんがほとんど養育者に依存している関係性であるということができます。

 やがて、子どもは1歳をすぎる頃になると二足歩行が可能になり、「ママ」、「マンマ」など意味のある言葉を話すようになります。歩行という自分の力での移動手段を獲得し、言葉を使って表現することができるようになるのです。生後18ヶ月から就学前までを幼児期といいますが、この幼児期に親子関係は最初の質的な変化を迎えることになります。
 2歳をすぎると、子どもは養育者の言うことに対して、何でも「イヤ!」というようになります。「ごはん食べようね」、「イヤ!」、「お風呂入ろうね」、「イヤ!」というように、とにかく、言われたことには何でも「イヤ!」と言うようになります。これは子どもの内面に自我が芽生えてきたことを示すものですが、養育者にとっては、それまで言うことを聞いてくれたのに、「イヤ!イヤ」の応酬でほとほと困ってしまいますよね。この「イヤ!イヤ!」の時期を、幼児期のうちでも特に「第一自己主張期」と呼んでいます。子どもはすでに歩くこともでき、自分で行きたいところに移動が可能になっている上に、養育者の言うことをきかないわけですから、養育者は大変です。しかし、そのままにしておくわけにはいきません。危ないことをしていたらやめさせなくてはいけませんし、ご飯を食べさせるために、時には叱らなくてはいけないでしょう。つまり、「しつけ」が開始されます。ここで、親子関係における最初の質的な変化が起こります。親のコントロールに対して子どもが反抗する、という図式です。乳児期まではほとんど養育者に依存していた親子関係が、幼児期になって、親子の対立、葛藤が出現するまでに変化するのです。さらに、幼児期は幼稚園や保育園への就園を通して、同年代の仲間との新しい関係性をスタートさせるときでもあります。家庭以外での新しい世界での仲間関係の開始です。子どもにとっては楽しみでもあり、もちろん不安もいっぱいです。しかし、子どもは乳児期の間に築いた養育者との太いパイプを安全基地として、少しずつ、少しずつ、対人関係を広げていくことができるのです。

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