渡辺 まみさん 平成8年3月卒業の金沢女子大学第6期生

紹介者 木梨 由利

 英文学研究を志して入学された渡辺まみさんが、卒業論文用に選んだ作品はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』。種本であるアーサー・ブルックの作品と丹念に比較し、若い主人公たちの純粋な情熱や、それゆえの悲劇性を浮き彫りにした労作でした。今から思えば、ジュリエットの情熱は渡辺さん御自身のひたむきさにも通じるものだったかも知れません。留学することは早くからの計画だったようですが、まだ大学からの派遣留学制度がなかった頃のことで、留学先の選定から入学手続きに至るまで、すべて自分の力で行う、文字通り手作りの留学を果たされました。学位授与式の時の写真からも窺えますように、小柄で、かわいらしいという形容がぴったりだった渡辺さんが、ご留学後、現在までの道をどのように切り拓いてこられたのかを書いて下さいました。

「留学――そして言語学研究の道へ」

渡辺 まみ

 大学を卒業して、約10年になろうとしています。私が学んだ4年間は多くのすばらしい人達との出会いの場であったと同時に、学問の楽しさを改めて知った場所であり、卒業後の言語学研究の道へ進む出発点になりました。

 大学在学中は英文学に没頭しました。英文学の講義が面白くて、単位にかかわらず、気に入った講義は2年連続して聴講したものでした。更に学びたいとの思いで、大学院進学を決断し、卒業後はイギリスへ旅立ちました。

 私が選んだ場所はニューカッスルというイギリス北東部です。当初は本場で英文学を勉強したいとの思いで渡英したのですが、ニューカッスル大学ファンデーションコース(大学院入学に必要な英語力を身につけるコース)で学ぶうち、英語教育に興味が移ってしまい、コース終了後は同大学院教育学部TESOL科に進みました。TESOLとは簡単に言えば、第2外国語、または外国語としての英語教授法です。そこでは日本人は私一人で他はヨーロッパ諸国、アフリカからの留学生も多く在籍しており、国際性豊かな環境で学ぶ事ができました。

 また、大学院在学中は北東イングランド日本人補習校というところで講師の経験もすることができました。小学校1年生から中学校3年生まであり、当時約100人の日本人の生徒が学んでいました。私は小学校4年生の担任をしていました。彼らは平日の月曜日から金曜日は現地校(イギリスの学校)に通い、補習校で土曜日に国語の授業を3時間続けて受けます。国語の授業を3時間続けて受けるというのは、大人でさえ容易なことではありません。

 イギリスに幼少期から滞在していると、日本語より英語のほうを得意としている子どもたちも多くいましたので、同じ日本人と言っても、言語環境は多様化していました。英語を自然習得している子ども達に接するようになると、言語習得に特に興味をもち、修士論文は日本人の子どもによる英語習得をテーマにして書きました。

 修士号取得後は、更に研究を続けたいと意欲がわきました。しかしPh.D(博士号)ともなると、研究分野が絞られ、私の研究を受け入れてくれる場所、そして博士論文担当教官を探すのがとても困難になりました。残念ながら、ニューカッスル大学には言語習得・喪失を主に研究しておられる先生はいなかったため、他を探すしかありませんでした。そこでイギリスはもちろん他国の先生に、今後の研究テーマを送り、受入先を探しました。そこで出会ったのが東京外国語大学大学院です。そこでは私が博士論文としてとりあげた分野で、すでに博士論文をアメリカで取得された先生がいらっしゃり、いろいろなアドバイスを受ける事ができ、論文に必要なデータ収集、文献を読む時間にあて、研究生として1年をすごしました。

 東京での1年はある意味リフレッシュでき、充電期間にもなりました。その間、イギリスのエセックス大学大学院から受け入れ可能の通知が幸運にも届きました。修士論文の時は時間との戦いで、寝る間を惜しんで勉強したものですが、博士論文となると、そこまで力を入れすぎると最後まで終わりそうにないので、ある意味、のんびり研究しています。

 今は結婚し、昨年娘を出産し、研究は一時中断しています。まだまだ子どもに手がかかるため、いつ本格的に復帰できるのかは定かではありません。ただ何の縁か、私の主人は日本人ではないため、娘には両親が、それぞれ異なる言語で話しかけています。まだ1歳になったばかりですので、意味不明の言葉(らしきもの)しか話しませんが、それぞれの言語には反応しています。今後娘がどのように二つの言語を習得していくのかとても興味があるところで、新たな研究材料としても生かしていきたいものです。

 今振り返ってみると、本当に不思議な事がたくさんあります。英文学を学ぶために出かけたのに、現在は言語学の研究をしています。人は生きていると、いろんな人、ものに出会います。そのなかで、自分にできること、やりたいことが見つかるかもしれません。何事も諦めないでいれば、チャンスはいつかやってきます。しかし努力を怠る事は禁物です。今できる事を確実にすれば、先につながるような気がします。

 今の私にとって、やりたいこと、大切なことは子育てです。そして、論文の執筆は一時中断していると言っても、子育てを通して、娘の言語習得過程を見つめる事で、私の研究も続いていると思うのです。

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