「戦争の記憶」と「語り継ぐ」こと

中西 茂行

 本当に久しぶりに演劇というものを観た。作品名「満州8・27」、劇団アンゲルス第11回公演(’06, 9/15, 9/16, 9/24)、会場:金沢市民芸術村ドラマ工房、台本・演出:岡井直道、舞踏指導:白榊ケイ、照明:宮向隆、音響:HARA2。この劇には原作がある。石川県教育文化財団編『8月27日―旧満州国白山郷開拓団―』(北国新聞社出版局)、2004年に出版された。この本のもととなった聞き取り調査、資料収集、旧満州国現地調査などを敢行されたのは、財団理事長の重田重守さん(74歳)である。財団で「自分史図書室」を開設され、「自分史同好の集い」を継続されている方で、石川県ではかなり著名な方である。

 8月27日とは、1945年(昭和20年)8月27日を指し、それは、1939年(昭和14年)に入植した満州国白山郷開拓団壊滅の日の惨劇を意味する。小学校校舎に集まった400余名の団員が中国人に取り囲まれ、銃撃を受ける中、団員の一人が放った火によって350人を超える人たちが命を落とした。この開拓団の生き残りであり重要な証言者の一人であるNさんが、この本を手にした時、タイトル「8月27日」を食い入るように見入られたというエピソードから当事者に刻み付けられた日付の意味の重さが伝わってくる。

『8月27日』石川県教育文化財団編、北国新聞社、2004年 劇団アンゲルスの団員は、戦後生まれ、物心ついた時は平成の世であったという人もいる若い人たちが多い集団である。当然の事ながら戦争とその後の戦後の混乱期と無縁の人達である。演出家、岡井直道(59歳)の演出で舞台化が決まった後、重田さんは、「自分史同好の集い」でこの青年らと戦中を生きた人達との交流の場をセッテイングした。若い団員らは、慎重に言葉を選びながら、自分たちの全く知らないことそれも戦時期の集団自決という重い現実をどのように受け止め、どのように演じうるのかという戸惑いを口にする。集まった老人らは、戦前、戦中、子どもたちが歌った遊び歌を女性の方が口ずさみ、大陸の戦地に赴いた男性は交戦状況を再現しようとする。

 公演は、時折、ドキュメントフィルムで時代背景を映し出しながら、原作の中にある言葉をほぼ忠実に再現することでストーリーを展開し、同時に、ストーリー展開の場である舞台に舞踏を取り入れることで、一人の女性の舞踏の舞いが、迫り来る惨劇を予兆し、転じて、惨劇の修羅場、限界状況を目の当たりにした童女の無感応な語りの姿となったりするという不思議な空間を醸し出していた。そして、8月27日の惨劇とその後の引き揚げ時のストーリーを経て、舞台は、死者の御霊の望郷の念を映し出し、最後は、御霊の鎮魂によって閉じられた。

 演劇には全く縁のない人間なので「満州8・27」を演劇としてこれ以上勝手な解釈をするのは止めるが、公演を観た後で、改めて原作『8月27日』に目を通すと、本の中の活字が、言葉が人の声として聞こえ、人の姿、仕種として見え、耳に公演で流された音色、調べが浮かんできたことを記しておきたい。

 著書『8月27日』は、この惨劇が決して特殊なものではなく、全国で結成された800余の満蒙開拓団消滅の「縮図」であることを記している。また、著書『8月27日』、演劇「満州8・27」から我々が汲み取りうることは、狭量なナショナリズムとは異質のものである。そこには国家との関わりの中で歴史の渦に巻きこまれた庶民の姿が映し出されている。

 重田さんの祖父は、白山郷鳥越村の村会議員として、白山郷満蒙開拓団結成を推進された方だとのこと。「少なくともアンゲルスの若者には語り継げられたと思う」「これでやっと少し肩の荷が下りた」という重田さんの感懐を真摯に受け止めたい。

劇団アンゲルス公演「満州 8・27」〔「北国新聞」2006年9月16日朝刊〕)

Comments are closed.