外国語学習に成功するには

中島 彰史

 カナダのコミュニティカリッジに学生たちと語学研修に行った際、日本語のクラスにお邪魔しました。日本語を勉強し始めてから約一年半のクラスでしたが、受講生たちの日本語の発音もそれほど違和感のあるものではなかったですし、また、彼らが話す日本語の文そのものもかなり高度なものでした。そのクラスの先生(日本人の先生です)は「最初は百人ほど集まるけれど、だんだん人数が少なくなっていくんです(お邪魔したクラスの受講生は十数名でした)。こちらでは高校までの授業で暗記することを求められることが殆どなかったけれど、日本語の学習では暗記しなければならない部分が多いので、その面であきらめてしまう学生たちが多いのです」とおっしゃっていましたが、動詞の変化などに関して受講生たちは十分にマスターしていました。つまり、かなり優秀な(暗記するという面倒な作業を克服したという点などで)学生たちのクラスだったということですが、それでも、わずか一年半で日本語でのコミュニケーションがそれなりに取れる(自分の言いたいことを、覚えている単語や表現を用いて相手に伝えられる)レベルまでに到達していることに驚きました。また、人にもよりますが、積極的に私たち日本人に英語または日本語で話しかけてくるのです。「友達が名古屋に住んでいるが、名古屋は知っているか」とか「ヴィクトリア大学に編入するために日本語を勉強しているんです」とか何やかやと言ってコミュニケーションをはかろうとしてきます。

 「語学(外国語を学習する能力)の才能がある・ない」ということをよく耳にします。つまり、外国語の学習に向いている人もいれば、向いていない人もいることが一般的に信じられている、ということでしょう。確かに、授業科目で得意な科目もあれば、不得意な科目もある、好き・嫌いという点で授業科目が分かれることは皆さんも経験済みのことでしょう。しかし、外国語の学習の場合、外国語といえども言葉には変わりありません。人間であれば誰しも母語をそれほど苦もなく習得できます。母語の習得と外国語の学習ではどこが本質的に異なるのでしょうか(あるいは、本質的に異なるところはないのでしょうか)。母語の習得はほぼ100%成功するのに対し、外国語の学習は(母語話者と同じくらいのレベルまで到達できるという点で見ると)殆ど失敗するのは何故でしょうか。また、上で触れたように、外国語の学習に対する適性というものが本当にあるのでしょうか。これらの点に関しては、「言語習得」という学問分野があって、まだ決定的なことは分かってはいませんが、分かってきている部分もあります。例えば、外国語の学習の適性に関して、以下の四つの能力が関与していることが分かっていて、外国語の学習が成功するかどうかをかなりの部分まで予測できるようです。?音に対する敏感さ、?文法に関する敏感さ、?意味と形の関連パターンを見つけ出す能力、?丸暗記する能力。これらの能力を見ると、おそらく、幼児が母語を習得する際に行っている作業(幼児たちは無意識のうちに行っているものです)と一致するようです。どの音に意味があり(つまり、単語の意味を区別するのに役に立つか否かという点で意味がある、ということ)、きまりを発見したり、修正したりするという主体的な作業を幼児は常に行っているということです。

 さて、外国語(ここでは英語)の学習における効果的な方法について考えてみます。皆さんは英語を勉強されていると思いますが、どんな英語に普段接しているでしょうか。受験勉強として英語を学習しているなら、文法や会話問題に関係する英語や長文の英語が殆どだろうと思います。そして、問題を解いたり、英文を日本語に直したりすることが英語の勉強だろうと思います。勿論、試験に受かるため、読解力を身に付けるためなどには必要なことですが、やはり、これではコミュニケーションをはかるための英語力はなかなか身につかないと思います。コミュニケーションをはかるためには、相手の言っていることを瞬時に理解し、自分の言いたいことを瞬時に言えなければなりません。そのためには、様々な英語を大量にインプット(聞いたり、読んだりすること)して、即座に(つまり、インプットした瞬間に)理解できることが必要になってきます。いちいち日本語に訳すために頭を働かせていたら、インプットされる英語の処理に対応できず、理解できなくなってしまいます。極端な話、例えば、‘This is a book’という英文なら、「これは本です」などと日本語を頭に浮かべなくても、理解して処理できるでしょう。このようなことができるレベルにまで持っていくことを目標にするということです。大変な努力が必要です。それから、何故この単語・表現がこの場合使われているのだろうか、と考えるクセをつけたほうがいいでしょう。例えば、意味的にはほぼ同じようなことを言っている三つの英文‘If you take the No.5 bus, you’ll get there’, ‘Take the No.5 bus, and you’ll get there’, ‘The No.5 bus will take you there’ですが、「何番のバスに乗ればそこに行けますか」という質問に対する答えとしては、最後の文が最も適切です。そこに行くバスはいくつかあるが、5番のバスが一番いいと言っているからです。

 言葉の仕組みは単純ではありませんし、また、学習するたびに次から次へと新たな表現が出てきます。だから、「10日間でペラペラになる」とか「これだけ知っていれば大丈夫」などといった教材に惑わされず、一生かけて英語の力を身に付けていくといったある意味開き直りの気持ち(私自身、そう思っていますが)を持って、但し、学習するときは、頭をフル回転させながら、集中してやることが大切です。英語の学習は、つまり、外国語の学習は、何もその外国語自体を勉強している時だけに限られるものではありません。注意深く人の話を聞いたり、自分で判断し選択したりする能力も根っこの所では外国語の学習と密接に関連しています。外国語学習には、マクロな気持ちとミクロな視点、そして、主体的な作業などが必須要素でしょう。

Comments are closed.