上手にほめて,意欲を高める

中崎 崇志

 昨年10月号の心理学コラムで,オペラント心理学の観点から,ほめること・叱ることについて紹介しました。今回はその続編です。ぜひ10月号の心理学コラムも合わせてお読みください。

 さて,10月号のコラムで取りあげた『強化』は,『ある行動に後続して与えられ、その行動の生起確率(生起頻度)を高めるもの』で,それが与えられた結果『快』の状態になるか,もしくは不快な状態から脱することができる,と説明しました。強化された行動(強化の直前におこなっていた行動)は学習され,その行動が反復されるようになりますが,強化されなくなってしまうと,今度は徐々にその行動をやらなくなってしまいます。

B.F.スキナーとスキナーボックス スキナーボックスという実験装置を使って,箱の中の壁面に取りつけられたレバーを押すと餌がもらえるという課題を白ネズミに学習させます。訓練の結果,ネズミはレバー押し反応を習得して,餌をもらうためにせっせとレバーを押すようになります。
 しかし,レバーを押しても餌が出てこないように装置の設定を変えると,ネズミは,最初はムキになってレバーを何回も押しまくるのですが,やがてレバー押しそのものをやめてしまいます。何回反応しても『快』な状態にならないからです。獲得した反応や行動が消失することを『消去 extinction』と呼びます。

 そして,消去に移る前の強化の与え方によって,消去の速さが違うことが知られています。前述のネズミの実験のように,反応するたびに毎回強化するやり方を『連続強化』と呼びます。一方,すべての反応を強化せず,反応が一定の回数に到達するごと,あるいは一定の時間が経過するごとに強化するようなやり方を『部分強化』と呼びます。
 さて,消去が速いのは,どちらのやり方だと思いますか?

 まばらに餌をもらうよりも,毎回餌をもらってしっかり学習した方が忘れにくいはずだから,消去が遅くなるんじゃないか,と思った人もいるでしょう。
 確かに,新しい行動の学習は,連続強化で訓練した方が速やかに成立します。しかし,消去もまた,連続強化の方が速く起こります。
 消去の起こりにくさを表す言葉を,『消去抵抗 Resistance to Extinction; RE』と言いますが,連続強化で訓練されたネズミよりも,部分強化で訓練されたネズミの方が『消去が遅く』=『消去抵抗が高く』なります。部分強化のネズミは,なかなかレバー押しをやめません。つまり,学習の過程では連続強化の方がよく,学習した行動の維持には部分強化の方が向いているのです。

 部分強化の方が消去しにくい理由は,次のように説明されます。
 部分強化で訓練を受けてきたネズミは,訓練の最中に『レバーを押して餌がもらえた』という経験と『レバーを押しても餌がもらえない』という経験を,同時にします。すると『今回はもらえなかったが,次はもらえるかもしれない』という予期が生まれて,消去に移ってからも,その予期が反応を続けさせる,というわけです。

 皆さんの身近にある例では,パチンコがそうですね。大当たりしたり,なかなか当たらなかったりする。これが繰り返される,すなわち部分強化で行動が維持されるために,なかなかやめられなくなってしまう。
 ギャンブルにはまってしまう人は,強化される確率は極めて低いが,与えられる報酬価はそれなりに高い,という部分強化に制御されてしまっているのです。

 もちろん,ギャンブルでなくても同じことが言えます。
 例えば,小学生の子どもが,学校で絵を描いて先生にほめられたよ,と親に言いに来て,その絵を見せたとしましょう。ひょっとしたら,おこづかいぐらいは期待しているかもしれませんね(笑)。
 親がそれをほめれば強化になります。強化によって,子どもは絵を描くことが好きになるかもしれませんし,学校での出来事を親に話すのが楽しくなるかもしれません。そのたびに親は相づちを打ち,ほめてあげれば,連続強化になります。
 でも,親にだって忙しいときも,疲れているときも,機嫌が悪いときもありますよね。そんなときに子どもが話をしに来ても,つい邪険に追っ払ってしまう。これは強化の停止です。連続強化で維持されていたら,強化の停止が続くと行動は消去してしまいますから,子どもは絵を描かなくなるかもしれないし,親に1日の出来事を話すのをやめてしまうかもしれません。
 ですから,邪険にしてしまった後――その翌日とかそれ以降に,また子どもが来たら,今度はいつもの通りに話をして,ほめたり,よく話を聞いてあげたりすれば,部分強化が成立します。子どもはその行動を続けます。

 さらに,最初はこのような外部から与えられる強化によって維持されていた行動でも,やがて,子どもは自分自身の関心や好奇心を満たすために,自ら行動して自分自身を強化するようになります。自分で勉強する意欲や,自分で勉強する習慣が身につくわけです。これを『内発的動機づけ』と言います。

 ほめることが大切なのは言うまでもありませんが,そのほめ方をちょっと考えてやれば,相手が行動する意欲を高めることができるのです。

筆者が実際に使用したスキナーボックス2種

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