世界で一番有名な魔法使い?

木梨 由利

Harry Potter and the Order of the Phoenix

 イギリスの伝説や物語には、いろんな魔法使いが登場します。例えば、アーサー王の物語に出てくる偉大なマーリンや、映画化でより身近な存在になった、トールキンの『ロード・オブ・ザ・リング』に登場する、叡智と優しさを備えたガンダルフ等……。

 けれども、今世界で一番有名な魔法使いと言えば……これは、多分ハリー・ポッターでしょう。なにしろ、彼の活躍を描いた5作品は、歴史上、聖書に次ぐベストセラーで、さらに60ヶ国語にも翻訳され、200ヶ国で愛読されているというのですから。日本でも、つい1ヶ月ほど前にシリーズの第5巻 Harry Potter and the Order of the Phoenix の日本語版 (『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』) が出版され、あちこちの書店の店頭を飾っています。

 ハリーは特別な魔法使いです。ほとんどの魔法使いたちが、その名を口にするのも恐れるほどの強力な闇の魔法使いであるヴォルデモートに、わずか1歳の頃殺されそうになった時も、その攻撃をはね返して生き延びたのですから。けれども、同じ時彼の両親は殺され、孤児になったハリーは叔母さん夫婦の家で惨めな10年間を過ごします。
 10年後、自分が魔法使いであることを明かされ、両親の母校でもあるホグワーツ魔法魔術学校に入学したハリーの生活は、かつて想像もできなかった素晴らしいもので彩られます。自由、親友、気遣ってくれる大人たち。そして、数々の魔法のアイテムや魔法の力。
 とはいえ、ハリーが魔法使いとして生き始めたことは、宿敵ヴォルデモートとの闘いが再開されたことをも意味するのです。なぜそういう運命にあるのか、過去に何があったのかを探りながら、ハリーは次第に熾烈 (しれつ) になる闘いにますます深く巻き込まれて行きます。

 最新作である第5巻は全7巻で完結する予定のシリーズの、大きな山場の部分であるのかもしれません。ここでは現実の闘いが 熾烈であるばかりではなくて、ハリーの心も深く深く傷ついています。1巻毎に1年を経て、今15歳になったハリーは、もはや初めてホグワーツに足を踏み入れた頃の無邪気な子供ではありません。怒り、疑い、苦悩します。

 そう、ハリーは、特別な魔法使いではあるけれども、私たち人間の少年少女と同じような喜怒哀楽を味わい、挫折もしながら、成長していくのです。「ハリーだって私たちと同じ」、そんな親近感を抱かせるのが、このシリーズが愛される大きな理由の一つと言えるでしょう。もちろん、このシリーズの最大の魅力はファンタジーであるための楽しさでしょうし、映画『ハリー・ポッターと賢者の石』や『ハリー・ポッターと秘密の部屋』も、CGの技法を駆使して、美しい映像に満ち、痛快で大いに楽しめるファンタジーの世界を展開してみせてくれました。

 けれども、「ハリー・ポッター」の中には、映画では表現しきれない要素もたくさんあります。例えば、詳細で意味深長な描写。込み入ったストーリー展開。伏線が縦横に張り巡らされた「ハリー・ポッター」を読む時のもう一つの面白さは、推理小説を読む楽しさやジグソーパズルを完成して行く楽しさにも似ているのですが、それこそ、時間に制約される事がより少なく、読み返しも可能な、読書という活動形態の中で、初めて味わえる楽しみでしょう。

 同じ読むにしても、もし英語が好きなら、ぜひ英語の原書も読んでみて下さい。日本語の翻訳も、日本語だからこそできる工夫とユーモアに満ち、素晴らしいですが、原作は英語特有のリズムや言葉遊びのおもしろさなどにも導いてくれることでしょう。

 ハリーは私たちに魔法の使い方を教えてくれたりはしませんが、楽しい空想の世界に導いたり、愛や友情や勇気など、人生で大切なものについて考えさせたり、他にも読書に伴うさまざまな喜びを味わわせてくれます。ハリーはなるべくして有名になったのだろうし、そんなハリーと知り合う事は、きっと日常を豊かにしてくれることでしょう。

参考資料

ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(上)「ハリー・ポッター」シリーズ
(J. K. Rowling 作 日本語版は松岡佑子訳 静山社出版)
第1巻  Harry Potter and the Philosopher’s Stone (1997)
(アメリカ版は Harry Potter and the Sorcerer’s Stone
『ハリー・ポッターと賢者の石』 (1999)
第 2 巻  Harry Potter and the Chamber of Secrets (1998)
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』 (2000)
第 3 巻  Harry Potter and the Prisoner of Azkaban (1999)
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』 (2001)
第 4 巻  Harry Potter and the Goblet of Fire (2000)
『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(上・下)( 2002 )
第 5 巻  Harry Potter and the Order of the Phoenix (2003)
『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』(上・下)( 2004 )

 

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