心理学における“モデル”の考え方 【心理学コラム】

What is a "Psychological model" ?

中崎 崇志

 前回のコラムから,ずいぶんと間が開いてしまいました。前回のお話は『心理学で「物理学」? ―精神物理学入門―』でしたが,この最後に『次は,「ウェーバーの法則」と「フェヒナーの法則」を通して,「心の機能の法則性」について触れてみたい』と書きました。今回はこの約束を果たすべく,心理学における“モデル”について考えてみたいと思います。

 心理学で“モデル”と言った場合は,いくつかの解釈があります。今回のコラムでお話ししたいモデルは「心の働き・機能を定式化したもの」です。一般法則とかメカニズム,模式図などと言い換えてもいいでしょう。
 前回のコラムで紹介した精神物理学の「ウェーバーの法則」や「フェヒナーの法則」は,モデルを数式で表します。ウェーバーの法則は,前のコラムに書いたように「2つの刺激強度の違いがわかる最小の物理量の差」についての法則です。これを理解するために,以下のような問題を考えてみます。

 100gのおもりを持った後に別のおもりを持ち,それが「さっきより重い」とわかるのは,どれだけ重さが増えたときでしょうか? もし最初に持つおもりが50gだったらどうなるでしょうか?

 何回も測定を繰り返して調べた結果,元の刺激量と増減した刺激量の間には

 ΔRR = C (C は定数)

 という関係があることを,ウェーバーは確かめました。
 重さの例で言えば,Rは元の重さ,ΔRは増減した重さを示します。さまざまな研究から,重さについてはCが0.02となることがわかっています。100gのおもり(=R)に対して,Cが0.02になる値(=ΔR)は2gですから,102gになれば「重い」,98gになれば「軽い」とわかる,ということです。重さについてのCは必ず0.02になるので,元の量が200gなら4g,50gなら1gの変化で違いがわかることになります。この定数Cをウェーバー比と呼びます。フェヒナーはこの点をさらに詰めて,フェヒナーの法則を立てました。こちらは一種の対数関数になっています(図の右下にある式がそれです)。
 これらの法則は残念ながら感覚の全域について当てはまるわけではありませんが,心の機能の法則性を1つの答えが定まる数式で示す,というのは非常に重要な考え方です。
 数式や関数で表現されたモデルは他にもたくさんあり,学習心理学の世界ではハルが16もの公準(=モデル)を提案しています。

 モデルには,数式でないものもあります。
 例えば,我々の記憶に関する有名なモデルがあります。我々の記憶は「感覚記憶・短期記憶・長期記憶」に分けられます。これは,アトキンソンとシフリン(Atkinson & Shiffrin, 1968)が提案した「感覚登録器・短期貯蔵庫・長期貯蔵庫」の分類に由来します。この分類は,短期貯蔵庫と長期貯蔵庫の部分を取って「二重貯蔵モデル」と呼ばれています。実際にこのような3つの容れ物が存在するわけではありませんが,「記憶はこういう3つの容れ物があるような仕組みになっている」と考えれば,いろいろな記憶の現象に説明がつくので,これもモデル=「記憶の構造についての模式的考え方」と言えます。

 このように,心理学におけるモデルは,ある心の機能の法則性を示すための考え方や理解の道筋を提供します。こういったモデルに基づく研究が繰り返され,そのモデルの正しさや欠点が追究され,そして新しい発見に繋がっていく。心理学はそうやって発展してきた学問であるとも言えるのです。

(図中の式は,【右上】分散分析におけるデータの構造式,【左上】ウェーバーの法則,【中央右】レスコーラ・ワグナーモデル,【右下】フェヒナーの法則,【左下】ハルの反応ポテンシャルモデル。背景の図は,【上】学習曲線,【下】オスグッドの転移逆向曲面)

Comments are closed.